令和最初の大晦日。衝撃的なニュースが飛び込んできた。会社法違反(特別背任)などの罪で起訴され、来春にも始まる公判を控えて保釈されていたカルロス・ゴーン日産元会長が極秘出国していたのだ。保釈条件に違反するとみられ、本来ならば保釈取り消しで再収監となるが、出国先は中東のレバノンという。このまま、日本に戻らず、公判が行えるかどうかも雲行きが怪しくなってきた。
ゴーン元会長は2018年11月、日産の有価証券報告書に自身の役員報酬を過少記載していたとして金融商品取引法違反容疑で東京地検特捜部に逮捕された。その後も日産の資金を不正に自身に還流させ、会社に損害を与えたとする会社法違反容疑などで2度の逮捕が繰り返された。
この事件は、検察側と弁護側が「身柄拘束」を巡って、何度も攻防を繰り広げていた。弁護側は保釈請求を繰り返し、検察側は反対の意見を提出する。海外からの長期勾留批判も影響したのか、裁判所は今年3月、いったん保釈を許可した。この時、ゴーン元会長が作業員姿で現れたのは記憶に新しいだろう。この保釈許可決定に対し、検察側は「保釈条件に実効性がない」とする異例のコメントを出している。
そして、特捜部は保釈中のゴーン元会長を再び逮捕する。4度目の逮捕だ。その後、裁判所は4月に再び保釈許可決定を出す。裁判所の決定である以上、検察側は表だったアクションはもちろん示せないが、内々には裁判所の保釈許可決定に反発する声が当然、上がっていた。今回の「ゴーン海外逃亡」のニュースに、検察側は「そら見たことか」と言いたくもなるだろうが、後の祭りだ。
「逃げるということは、後ろめたいのだろう」
気になるのは、ゴーン元会長の弁護団が今回の逃亡劇を阻止できなかったのかということだ。裁判所からすると「せっかく保釈してやったのに、逃げるとはけしからん」という心理になる。「逃げるということは、後ろめたいのだろう」ということにもなる。ゴーン元会長は無罪主張の方針だったが、裁判所の心証は当然、クロに傾くだろう。
弁護団はいわゆる「無罪請負人」として知られる弘中惇一郎弁護士に加え、「日本の三大刑事弁護人」の一人でベテランの高野隆弁護士、若手随一のエースといわれる河津博史弁護士のトリオだ。日本の刑事弁護界を知る者なら、「最強の弁護団」との呼称もうなずける面々といえる。この面子だったからこそ、ゴーン元会長の早期保釈を勝ち取ることができたとも言える。それだけに、今回の「海外逃亡」に最もショックを受けているのは、弁護団だろうと推察する。現時点では、弁護団が故意に国外に出したとは考えにくい。
「裁判所の保釈許可決定は緩すぎるのではないか」
そして、同様のショックを受けているのが、裁判所だろう。日本の裁判所は、2009年に裁判員制度を導入したことを契機に、刑事被告人の保釈率を上げてきた。一般市民の裁判員が適切に公平に審理できるようにするため、被告人が弁護人と公判に向けた準備をしっかりできるようにした。それでも、特捜部の事件で被告人が否認している場合はなかなか保釈を認めない傾向があったが、今回のゴーン元会長はその例外となった。
また、最近、保釈を認めた被告人が逃亡する事件が相次ぎ、「裁判所の保釈許可決定は緩すぎるのではないか」との声も上がっていた最中の出来事だ。ゴーン元会長の「海外逃亡」はもちろん大きなインパクトを持って、裁判所の保釈基準に対する考え方を揺るがすだろう。個々の裁判官は、より慎重に判断せざるをえなくなる。
最強弁護団が今後、どう動くかはまだ不透明だが、もちろん帰国するよう促すことになるのだろう。ただ、ゴーン元会長が応じるのかどうか、応じる可能性は低いのではないだろうか。さらに、日本はレバノンと「犯罪人引き渡し条約」は結んでいない。レバノン政府がゴーン元会長の身柄を拘束して、日本に送還することも期待できないだろう。
最初から「迷走」を続けてきた「ゴーン事件」。さらなる迷走が続きそうだ。




























