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強制不妊、「善意」が迫った命の選別 専門家「現代でも起こり得る」―自己責任社会に警鐘

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旧優生保護法下での不妊手術について説明する東大大学院の市野川容孝教授=6月3日、東京都目黒区

旧優生保護法下での不妊手術について説明する東大大学院の市野川容孝教授=6月3日、東京都目黒区

 国策として進められ、多くの障害者らの体にメスを入れた旧優生保護法下の強制不妊手術。敗戦後に民主化されたはずの日本社会はなぜ、差別を正当化し、命の選別を公然と認めたのか。専門家は「当時は悪意でなく、むしろ善意で行っているつもりだった。同様のことは現代社会でも起こり得る」と警鐘を鳴らす。

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 優生学の歴史に詳しい東京大大学院の市野川容孝教授(社会学)によると、戦前も日本には強制不妊手術を可能とする「国民優生法」が存在した。同法は1940年に制定されたが、記録が残る47年までに実施された不妊手術は538件と旧優生保護法下に比べて少なかった上、法律上は全て任意だったとされる。

 少なかった背景には「日本は家族国家で、さかのぼれば全て同じ血統」「子種を失えば、先祖の祭りは誰がするのか」という保守的な国会議員らの反対論があったという。市野川教授は「優生政策が、家の論理の前で挫折したと言っていい。家族国家というイデオロギーが敗戦で失効したことで、手術の強制が本格化した」と説明する。

 旧優生保護法は国会で全会一致により成立。法案提出者には、女性の地位向上に尽力した加藤シヅエ氏らも名を連ねていた。

 原告側弁護団によると、同法施行下で手術件数が全国最多だった北海道では「不幸な子どもを生まない道民運動」が展開された。道内で上映された映画では「異常児は本人の不幸であるばかりか、家族にとっても一生の悲劇」などと宣伝。同様のキャンペーンは各地に広がったとされる。

 市野川教授はこうした動きについて「出産、育児が家族の自己責任とされ、社会的な支えがない状況が生み出した側面がある」と指摘。「旧法の問題点の一つが不妊手術の強制だったことは明らかだが、個人の自己決定に基づいていれば問題なかったのか」と問い掛ける。

 出産や育児が自己責任とされる社会では、差別や偏見の中での子育ては難しく、弱い立場の人たちが人工妊娠中絶などを余儀なくされることもある。市野川教授は「新型出生前診断などの技術の進歩によって、命の選別がより容易に行われ得る社会に私たちは生きている」と話した。

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