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映画「ゴジラ-1.0」で意識したのは「文芸作品」 「技術的には集大成」、山崎貴監督ロングインタビュー

2023年11月17日18時00分

「すべてを壊すことで生まれる、ある種のネガティブな気持ち良さがゴジラ映画の魅力だと思う」と語る山崎貴監督=東京

「すべてを壊すことで生まれる、ある種のネガティブな気持ち良さがゴジラ映画の魅力だと思う」と語る山崎貴監督=東京

  • 筋肉質な造形が魅力の“山崎ゴジラ”(C)2023 TOHO CO.,LTD.
  • 山崎貴監督が最初に劇場で見たゴジラ映画は「三大怪獣 地球最大の決戦」のリバイバル上映。「(郷里の)松本市が出てくると聞き、『どうしても見に行きたい』と言って連れていってもらいました」=東京
  • 臨場感あふれるスペクタクルシーンが見る者を圧倒する(C)2023 TOHO CO.,LTD.

 来年で生誕70年を迎え、世界中に多くのファンを持つ怪獣王「ゴジラ」。その30作目にして最新作の「ゴジラ-1.0」が公開中だ。敗戦ですべてが無(ゼロ)に帰した1940年代後半の日本を舞台に、突如出現し、さらなるマイナスを国民にもたらそうとするゴジラの猛威を描く。監督、脚本、VFX(視覚効果)を担当したのは「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズや「永遠の0」などで知られるヒットメーカー山崎貴氏。「人間ドラマがしっかりと絡んだスペクタクル」を目指したといい、戦後の復興期を必死で生きる人々の姿も交えて物語を構成した。

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 ◇「シン・ゴジラ」へのライバル心?

 物語の中心となるのは、戦場から辛くも生還した青年・敷島浩一(神木隆之介)と、焦土と化した東京で彼と出会った大石典子(浜辺美波)。日本が徐々に活力を取り戻し始める中、突然、巨大怪獣ゴジラが出現、人々に再び暗い影を投げ掛ける。

 これまでも「ALWAYS 続・三丁目の夕日」にゴジラを“特別出演”させたり、西武園ゆうえんち(埼玉県所沢市)のアトラクション「ゴジラ・ザ・ライド」で使用する映像を演出したりと、ゴジラとは縁が深い山崎監督。実は以前にも東宝に「ゴジラ作品の監督を」と依頼されたものの、「(技術的な限界で)今、自分が思っているような映像はできない」との思いもあって断っていたそうで、「時期が来るのを待っていたような部分がありました」とも話す。

 そんな慎重な姿勢を変える契機となったのが、2016年に公開された「シン・ゴジラ」(庵野秀明総監督、樋口真嗣監督)を見たことだった。「すごいなと(思った)。かなりライバル心を抱いたというか、やる気が出ました。そこから『(自分がやるなら)どうすればいいんだろう?』と考え始めた」と振り返る。

 作品の舞台を戦後の日本に設定したのは、武力がほぼない状態の中で「一生懸命、英知と寄せ集めの武器だけで工夫を凝らして戦う」人々の物語を描きたかったからだ。「怪獣は戦争を背負った存在」と考え、作品全体に戦争の影を落としたかったほか、かねてから焼け跡となった東京を舞台にした漫画「あれよ星屑」(作・山田参助)の映像化を願っていたことも、今回の舞台設定につながったと明かす。

 そんな思いもあって、敗戦後の庶民の日常の描写には力を入れた。意識したのは戦後の日本映画黄金時代に数多く作られた「文芸作品」だという。敷島と典子を見守る太田澄子を演じた安藤サクラのキャスティングは、日本演劇界の重鎮で小津安二郎監督作品の常連としても知られた杉村春子さんをイメージしたのだとか。「ちょうど(是枝裕和監督の)『怪物』の撮影時期で、かなりタイトなスケジュールでしたが、無理やり来ていただきました」

 人間ドラマ重視の姿勢は「優れたスペクタクルにはパーソナルな物語が必要」との信念に基づくものだ。

 「僕が(ゴジラシリーズの中で)一番好きな初代『ゴジラ』(1954年公開、本多猪四郎監督)も、見れば見るほど登場する三人の男女(演・宝田明、河内桃子、平田昭彦)のパーソナルな話にしか見えない。ドラマを排除したから良かったと言われた『シン・ゴジラ』にも、主人公がゴジラとどう立ち向かうかを考えて葛藤する個人のドラマがちゃんとあった。もし今回の作品を見て、スペクタクルと人間ドラマがうまく絡んでいると思ってもらえるのなら、うれしい。そこがゴジラ映画の一番の難しさですから」

 ◇人間とゴジラの“近さ”を意識

 1964年、長野県松本市生まれの山崎監督は、特撮や合成のスタッフを経て「ジュブナイル」で監督デビュー。VFXを駆使した斬新な映像を持ち味とし、「寄生獣」2部作や「海賊と呼ばれた男」、フルCGアニメ「STAND BY ME ドラえもん」(八木竜一監督との共同監督)シリーズなど、数々のヒット作を世に送り出してきた。

 特撮の仕事を志したのは、中学時代に見た「スターウォーズ」と「未知との遭遇」に衝撃を受けたことがきっかけだったが、「ベースには(幼い頃から親しんだ)ウルトラマンやゴジラがある」と話す。

 ゴジラ作品では、第一作のほか「ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」や「シン・ゴジラ」、郷里の松本市が登場する「三大怪獣 地球最大の決戦」がお気に入り。「マニアではない」と言うものの、今作では過去の作品へのオマージュとも取れるシーンも数多く登場する。今ではゴジラのテーマとして広く親しまれている「ドシラ、ドシラ」の旋律を、ゴジラ第一作同様、“人間側の曲”として使用するなど、随所にファンとしてのこだわりが垣間見える。

 スペクタクルシーンの演出に当たっては、人間とゴジラの「近さ」をいかに見せるかに心を配ったという。「昔の作品は技術的な問題もあって、どうしても人間と特撮の空間が別々になりがちだった。でも、今の合成やCG技術があれば、その二つをうまく接着して、人間の顔が見えるすぐ後ろにゴジラがいる状況をつくり出すことができる」

 そんな臨場感を前面に押し出す絵作りは、「ゴジラ・ザ・ライド」用の映像を製作した経験から生まれたものだった。「(あの時、)怪獣が近くにいるのは、やっぱり怖いなと(感じた)。でも、生物は(人間の視点が)寄ったら寄っただけのディテールがないといけない。あれだけ大きな生物だと、(CGで表現するための)情報量が、とてつもないものになる。大変でした」と苦笑交じりに語る。

 自身も関わった新たなゴジラのデザインは、山崎監督が「異形としての完成形」と考える「シン・ゴジラ」とは異なる方向性を模索した。その中で出した結論は「『ディス・イズ・ゴジラ』を目指した『ゴジラ・ザ・ライド』のデザインに戻すこと」だった。「王道中の王道でありながら、『今作るなら、こういうゴジラだよね』というものにしたかった」。監督は「格好良さを意識した」とも話し、最終的に「(これまでの)ゴジラのイメージの集合体」のような仕上がりとなった。

 「すべてのシーンが大変だったが、技術的にはこれまでの集大成になった。今までの作品は怪獣映画を作るための武器をそろえる準備だった気もする。最後に(映像作家としての)自分が行きたかったのは、こういうところだったのかもしれない」と言う山崎監督。今作で「人知が及ばない存在でありながら生物でもある」ゴジラを描き切ったと思う半面、「『まだ何かできるのでは?』との気持ちもある」と大役を果たした現在の心境を吐露する。

 製作を通して「ゴジラは神様の映画であり、日本人が作るべきだという思いを強くした」。そう語る山崎監督が、再び怪獣王の具現化に取り組む日は来るのだろうか?(時事通信社・小菅昭彦)

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