米中首脳、「緊張緩和」を演出 対立先送りもくすぶる火種―外交・経済、難題対処を優先
2023年11月16日20時15分
バイデン米大統領と中国の習近平国家主席は1年ぶりの会談で、偶発的衝突の回避を図る軍高官の対話再開にこぎ着けた。だが、台湾問題などの懸案で大きな進展はなく、対立の火種は残る。一時的な「緊張緩和」を演出した両首脳からは、自国が抱える難題への対処を優先させたい思惑が透けて見える。
◇「厚遇」の再会談
バイデン政権下で2度目となった米中首脳会談は、各国の首脳や政府高官が続々と集まるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の開催地サンフランシスコではなく、その中心部から南に約40キロ離れ、自然に囲まれた歴史ある邸宅を舞台に行われた。
バイデン、習両氏は少人数でのワーキングランチを終えた後、広大な庭園を眺めながら2人で散策した。記者団から会談の様子を聞かれたバイデン氏は、両手の親指を立てて「上々だ」と返し、習氏も片手を上げて親密さを演出。習氏が会談場を後にする際も、2人は笑顔で別れのあいさつを交わした。
ロシアのウクライナ侵攻に加え、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突勃発に伴い、バイデン政権は二つの危機への同時対処を迫られている。再選を目指す米大統領選まで1年を切り、対中関係がさらに悪化して「3正面」に対処する事態は避けたいのが本音。習氏の「厚遇」には、少しでも緊張緩和を図りたいバイデン氏の「焦り」が見え隠れする。
◇巨大市場をアピール
「われわれは永遠に覇権を唱えず、いかなる国とも冷戦や熱戦を行わない」「中国は国連を核とする国際体制、国際法に基づく秩序を堅持する」。習氏は首脳会談を終えた15日夜、サンフランシスコ市内での夕食会に出席し、集まった米企業トップを前にこう断言した。
米中関係の悪化が進み、国内でも習政権が強権的な姿勢を強める中、外資の「中国離れ」が加速。各国企業関係者の間で、中国経済の先行きに対する懸念は強まっている。習氏は夕食会で14億の人口を抱える巨大市場の魅力を訴え、対中投資への警戒感払拭に努めた。
習氏が直面する最重要課題は、国内経済の立て直しだ。米企業の対中投資が戻れば、他国の企業が追随する可能性も高まる。対米関係の安定化は、経済再建を目指す習氏にとっても避けて通れない道だった。
ただ、こうした中国側の動きを「国内の課題に集中するための短期的な戦術的決断」(元米高官)と受け止める見方は、米側に少なくない。来年1月に台湾総統選、同年11月に米大統領選を控え、バイデン、習両氏が米中関係のコントロールを誤れば、くすぶり続ける火種は再び燃え上がりかねない。(サンフランシスコ時事)