金森穣「世界中で上演される作品に」 東京バレエ団の新作「かぐや姫」を演出、振り付け
2023年10月02日17時30分
東京バレエ団が新作「かぐや姫」の全3幕を10月に東京で世界初演する。「日本から世界に発信する全幕バレエ」として新潟を拠点に活動する舞踊家で振付家の金森穣に創作を委嘱。将来の海外公演も視野に入れ、2021年から1幕ずつ取り組んできた作品の全貌が明らかになる。
ドビュッシーの音楽に乗せて描かれるのは、おなじみの「竹取物語」を元にしたオリジナルの物語だ。21年11月に初演された第1幕は、貧しい山村の竹やぶで拾われ、成長して村の青年と恋に落ちたかぐや姫が、帝の命で都に赴くところまで。今年4月の第2幕では衣装や美術を全面的に見直し、宮廷で孤独を深めていくかぐや姫と、姫をめぐる宮廷の人々の姿を追った。新たに加わる第3幕では、人々の欲望が衝撃的な結末につながっていく。
この作品には、原作にはないキャラクターとして帝の正室「影姫」が登場する。「光は影があることで際立つし、光れば光るほど影が生まれる。かぐや姫という光の精の話なら、影姫が要ると思いました」と金森。環境破壊など現代社会に通じるテーマも盛り込んだ。「元来、おとぎ話って、強いメッセージがあったり、すごくダークだったりするんですよ」
金森は「りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館」の専属舞踊団「Noism Company Niigata(ノイズム・カンパニー・ニイガタ)」を率いて、コンテンポラリーダンスのフィールドで優れた作品を発表してきた。今回の「かぐや姫」の振り付けでは、「東京バレエ団のクラシックバレエの技法と、コンテンポラリーの金森穣の振り付けを、どう融合させて新しいバレエを作るかを意識した」と言う。
「バレエは上下の動きが多いのですが、水平移動を多用しています。それは、お能に始まる和の伝統的な芸能の身体性で、『ノイズム』でもやっていることです。あとは静寂の作り方。日本人は静けさというものを身体化できますが、西洋人は、ただ立っているだけで静寂を生むということが意外とできないんです」
金森は17歳で渡欧してモーリス・ベジャールやイリ・キリアンら世界的な振付家に師事し、ダンサー、振付家として実績を積んだ。帰国して2004年に立ち上げた「ノイズム」は、日本初の公共劇場専属舞踊団として知られる。今年出版した著書「闘う舞踊団」(夕書房)には、地方都市を拠点に劇場文化の可能性を切り開いてきた苦闘の日々をつづった。
「東京バレエ団から委嘱を受けてやっているのは、バレエという西洋発祥のものを、いかに日本のオリジナルにできるかという問題意識の下、日本のバレエを作ること。それには新潟での『ノイズム』の活動は不可欠でした」と金森。3年がかりの大プロジェクトを振り返りつつ、「日本人の振付家の新しいバレエが世界をツアーしたことは、いまだかつてない。ぜひ実現させたい」と今後の展開にも期待を込めた。
「かぐや姫」は東京文化会館で10月20~22日に上演。りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館でも12月2、3日に公演が行われる。(時事通信社・中村正子)