市民の7割、賛から否へ 機運再醸成は難しく―2030年冬季五輪・しぼむ札幌招致(上)
2023年09月14日11時28分
2030年冬季五輪・パラリンピック開催を目指す札幌市の招致活動が停滞している。当初は「本命視」されていたが、21年東京大会を巡る汚職・談合事件が昨年発覚したのを機に、市民や国内の機運はしぼんだ。
経費や汚職再発に不安 住民投票求める動きも―2030年冬季五輪・しぼむ札幌招致(下)
招致活動の経緯を振り返るとともに、現在の論点や不安材料をまとめ、推進派や反対派の声を探った。
札幌市が2014年に実施した市民アンケートでは、26年冬季五輪・パラリンピック招致について回答した約4800人のうち66.7%が「賛成」または「どちらかと言えば賛成」と答えた。これらを受け、当時の上田文雄市長は大会招致を正式に表明。巨額の開催費用を懸念する声もある中、1972年大会以来の五輪開催に向けて国際オリンピック委員会(IOC)と協議に入った。
その後、18年9月の北海道地震による被害対応を優先するため、札幌市は30年大会の招致に切り替えた。翌年、26年大会の開催地はイタリアのミラノとコルティナダンペッツォに決定。一騎打ちとなったスウェーデンの2都市を破った要因を、IOCのバッハ会長は「支持率の差」と述べた。イタリア勢は国内の83%が支持。冬季大会は招致熱の冷え込みが顕著なだけに、地元の意向は重要な判断材料になっている。
札幌市は国際大会の開催実績が豊富で財政面の懸念も少なく、当初は30年大会開催地の「本命」だった。昨年7月、東京大会を巡る汚職事件が発覚して状況が一変した。
大会組織委員会元理事らとスポンサー企業による贈収賄と、組織委元次長らによるテスト大会に関する業務の受注調整が続けて明るみに出た。これらを受け、昨年12月に実施された地元メディアの世論調査では札幌市民の67%が招致に「反対」か「どちらかと言えば反対」の意思を示した。
同時期にIOCは30年大会の開催地選定先送りを発表。当初は今年10月のIOC総会で決定する見通しだった。札幌市も当面は積極的な機運醸成活動を休止すると表明し、招致をPRする街中のポスターは撤去された。
東京大会を巡る不正が札幌でも繰り返されると不安視する声は多く、市は5月に大会運営の見直しに関する検討委員会を設置した。「不正の温床」と指摘される専任代理店方式の是非や、組織委理事の一部を公募する案などを議論している。
それでも、汚職・談合事件の裁判が続く中で再び招致の機運を高めるのは至難の業だ。検討委員を務める大川哲也弁護士は「よほどインパクトがある方針を打ち出さないと市民の考えは変わらない」と頭を悩ませている。