「途上国の旗手」明暗 習氏欠席、インドが存在感―背景に中国国内事情・G20
2023年09月11日16時31分
インドの首都ニューデリーで開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は、首脳宣言採択で議長国として成果を誇示したインドに対し、習近平国家主席が欠席した中国は存在感を示せず、「途上国の旗手」を目指す両国が明暗を分ける結果となった。その背景には、経済減速に悩む中国の国内事情も垣間見える。
◇グローバルサウス取り込み
「首脳宣言の採択によって、歴史がつくられた」。サミット初日の9日、メンバー国の合意にこぎ着けたインドのモディ首相は、誇らしげな笑みを浮かべ、拍手代わりにテーブルをたたいた。
ロシアによるウクライナ侵攻を巡る表現は昨年から後退したものの、宣言が採択されたことでインドのメンツは保たれた。アフリカ連合(AU)の正式メンバー入りでも合意。インドは、中国が巨額投資を通じ浸透してきたアフリカ諸国の加入を主導することで、「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国への発言力を高める狙いだ。
サミット閉幕後の10日夜、モディ氏は各国記者の集まるメディアセンターに、予告なく姿を見せた。落ち着いた足取りで会場を回り、「ダンニャワード(ありがとう)」と記者をねぎらう姿からは、2日間の成果に対する自信がうかがえた。
◇融和発言に終始
一方、習氏の代理で出席した李強首相の動向が、メディアの注目を集めることはなかった。「各国は互いを尊重し、違いを認めつつ共通点を求めるべきだ」。サミットでの李氏は、融和的で当たり障りのない発言に終始。中国がかねて非難してきた東京電力福島第1原発の処理水放出に関しても、議場での言及はなかったもようだ。
サミットに先立ちインドネシアで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議では、南シナ海での中国の強硬姿勢に批判が噴出。米中競争の「主戦場」であるASEANと、習政権が連携を重視する新興・途上国も参加するG20という二つの国際舞台で、中国は立て続けに「劣勢」を演じた格好だ。
◇優先順位変化か
2013年の国家主席就任後、毎年G20サミットに参加してきた習氏が初めて欠席した理由は明らかにされていない。中国人民大の時殷弘教授は「メンバー国との関係性の複雑化」を指摘する。G20には中国に批判的な先進7カ国(G7)が含まれ、友好国ロシアとの関係でも立ち位置の調整が難しくなるばかり。習氏にとってG20は「居心地の良い場所」ではなくなり、優先順位が相対的に低下しているとみられる。
中国国内に目を転じれば、経済が減速する中、長引く不動産不況や若年層の高失業率は社会不安を招きかねない。国民の不満を封じるためにも、現在の習氏が外交の場に求めるものは、確かな成果と自身の権威のアピールだ。G20を欠席した習氏だが、8月の新興5カ国(BRICS)首脳会議には出席した。加盟国拡大を主導するという明確な「成果」を見込めたためだ。
習氏は今後、より影響力を行使できるBRICSや中ロ主導の上海協力機構(SCO)といった枠組みへの肩入れを強めていくとみられる。米中首脳会談は11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に持ち越されたが、習氏が「成果を得られない」と判断すれば、再び先送りされる可能性もある。(ニューデリー時事)