岸田首相、「溝」残し放出決断へ 漁業者の反対変わらず
2023年08月22日07時13分
岸田文雄首相は21日、東京電力福島第1原発で生じる処理水の海洋放出について、全国漁業協同組合連合会(全漁連)の坂本雅信会長らに理解を求めた。長期に及ぶ計画を着実に進めるには漁業関係者の納得が不可欠だが、漁業者側は反対の意向を変えず、溝を残したまま放出決断を迫られることになった。
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首相は21日、首相官邸で向き合った坂本氏や福島県漁連幹部に「これまで通り漁業を続けたいとの思いを重く受け止めている」と強調した。最終決断を前に、漁業者の考えを直接確認するとともに、安全性の確保や風評被害対策を説明して丁寧な姿勢を示す狙いがあった。漁業者に対しては、これまでも関係閣僚が福島県や宮城県を訪れるなどして説明を重ねてきた。
坂本氏は「安全性への理解は深まった」と応じつつ放出への反対を明言。首相は7日に「信頼関係は深まっている」と述べたが、立場の差は埋まらず、政府関係者は「『安全性は理解した』と言うのが限界だろう」と心情を推し量った。
会談後、坂本氏は、政府が2015年に福島県漁連に示した「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」との約束について、「破られてはいないが果たされてもいない」と不満を口にした。
今後、地元の理解を促す上でカギを握るのが風評被害への対策だ。放出計画を批判する中国は既に日本産水産物に対する検査を強化しており、価格や輸出への影響が出ている。坂本氏は「科学的安全性と社会的安心は異なる。現に風評被害は起きている」と訴えた。
首相は「なりわいを継続できるよう、たとえ数十年の長期にわたろうとも全責任を持って対応する」と表明。経済産業省の基金や東電による賠償で万全を期す方針だが、懸念払拭は見通せていない。自民党のあるベテランは「(各国が)輸入規制を強化しようとしているのに危機感が足りない」と指摘した。