動画配信、公正な対価を要求 製作会社に打撃じわり―米俳優スト1カ月
2023年08月14日07時04分
【ロサンゼルス時事】全米の俳優ら約16万人による43年ぶりのストライキ決行から14日で1カ月。俳優らは収入減を覚悟の上で「動画配信時代」の公正な対価を求め、街頭に立ち続けている。事態の長期化で製作は止まり、作品の公開も延期されている。製作会社側の経営への打撃も徐々に明らかになってきた。
「昨年の収入は、2万ドル(約290万円)だったわ」。ロサンゼルスを拠点に5年間、役者として活動してきたジェシカ・ブラウンさん(39)は語った。それでも「少なくとも1回は医療保険に入れた幸運な一人よ」と語る。両親の支えもあり、夢を追い続けられている。
組合員には医療保険が用意されているが、12カ月で約2万6000ドル(約380万円)の収入が要件となる。組合員の87%がこれを満たしていない。数千万ドル(数十億円)を稼ぎ出す華やかなハリウッドセレブに世界の目が向けられている同じ街で、多くの俳優が不安定な生活を送っている。
コロナ禍に伴う「巣ごもり需要」を追い風に、動画配信サービスは急成長を遂げた。製作大手は、配信作品を独占しがちだ。テレビの再放送なら得られたような二次使用料も十分に得られなくなった。組合側は視聴回数に応じた支払いなどを求めている。
製作会社側が、人工知能(AI)に俳優らの動きを学習させることで雇用を奪われかねないとしてAIの利用制限も訴える。5月にスト入りした脚本家らの組合も、同様の主張を展開している。
製作会社側は、組合に対し既に「画期的な提案をした」などとアピールする。しかし、争点は多岐にわたり、隔たりは大きい。7月には、ある製作会社幹部が「組合員が家を失うまでストをやればいい」と発言したと伝えられた。亀裂の深さが浮き彫りになり、歩み寄りの機運は高まっていない。
製作会社の業績への悪影響も出始めている。ソニーグループは2024年3月期の映画事業の売上高予想を500億円引き下げた。娯楽大手ウォルト・ディズニーなども新作公開を延期する可能性が報じられている。
新作を出し続けられなくなれば、劇場の興行収入減だけでなく、配信サービスの解約増加にもつながる恐れがある。事態の長期化は、娯楽産業全体を大きくむしばむことになる。