収拾急ぎ「年内解散」余地残す 岸田首相、廃止方針は維持―マイナ保険証、不安払拭見通せず
2023年08月04日20時52分
現行の健康保険証を廃止し、2024年秋にマイナンバーカードと一体化する政府方針を、当面維持する考えを表明した岸田文雄首相。相次ぐトラブルで廃止延期も一時視野に入れたものの、マイナ保険証に代わる「資格確認書」の見直しで収拾を急いだ。早ければ秋の衆院解散・総選挙が想定される中、解散戦略の幅を残したかったとみられる。
◇追及回避
首相は4日の記者会見で、「国民の信頼を取り戻した上で、わが国に必要不可欠なデジタル改革を本格的に進める」と強調した。
保険証廃止を巡っては、萩生田光一政調会長ら自民党幹部から延期論が出たことを受け、政府が対応を検討。官邸関係者は「延期もあると思っていた」と振り返るが、廃止延期には先の通常国会で成立したばかりの改正マイナンバー法の再改正が必要となる。短期間での軌道修正には官邸幹部からも疑問の声が出ていた。
首相側近の木原誠二官房副長官が7月31日、加藤勝信厚生労働相を訪ねた際、加藤氏から現時点での廃止延期に慎重な考えを伝えられた。調整は難航し、1日に予定していた首相と河野太郎デジタル相、加藤氏、松本剛明総務相による協議は4日にずれ込んだ。
政府方針を維持した背景には、年内解散の可能性を残したい首相の思惑が絡んだ。方針転換し、秋に想定される臨時国会で再改正に臨めば、野党の激しい追及にさらされるのは必至で、「国会審議をしていれば年内解散どころではなくなる」(与党幹部)からだ。
◇閣内・公明に配慮
首相は閣内や公明党の意見も尊重した。デジタル相として保険証廃止を先導する河野氏、厚労相としてマイナ保険証への切り替えを進めたい加藤氏。両氏とも廃止の延期には反対しており、首相は資格確認書の運用見直しに着地点を見いだした。
秋までに終了させる関連データの総点検作業が続く中、公明党の山口那津男代表も「今延長を決める理由が分からない」と主張していた。
ただ、1年と説明していた資格確認書の期限を延長したことについて、自民党内からも「中途半端で腰砕けだ」(閣僚経験者)との不満の声が上がる。4日の首相会見を控え、周辺は「デジタル化を進めるのに今のままではよくない」として、必要性を強調するよう進言。首相は会見で国民の不安解消に努めつつ、マイナ保険証への一体化を進める方針に理解を求めた。
◇延期論再燃も
廃止方針の維持と国民の不安解消という「二兎(にと)」を追った決定に、官邸幹部は「完璧な解決策だ」と胸を張る。ただ、低下傾向の内閣支持率の主な原因はマイナ問題にあるとされ、政府関係者は「これで収束するのか」と不安視している。立憲民主党の泉健太代表は資格確認書の発行に関し「経費と手間が余計にかかる」と批判しており、総点検の結果によっては廃止延期を求める主張が再び勢いづく可能性もある。
ここへきて外務政務官だった秋本真利自民党衆院議員の疑惑も浮上。支持率がさらに下落する恐れもあり、同党関係者は「衆院解散は難しくなる」との見方を示した。