海外パビリオン着工ゼロ 資材高騰、人手不足が追い打ち―暗雲漂う大阪・関西万博
2023年07月26日17時42分
2025年4月に開幕予定の大阪・関西万博で、パビリオン建設の遅れが深刻化している。とりわけ海外の参加国・地域が建設するパビリオンでは、工事に必要な大阪市への申請がいまだゼロ。建設資材の高騰や人手不足など構造的問題が背景にあり、予定通りの開催を危ぶむ声もささやかれ始めた。
◇国家事業に二の足
「25年4月に万博を必ず開催させる。絶対に遅らせない」。大阪府の吉村洋文知事は今月25日、山梨県北杜市で開かれた全国知事会議で、居並ぶ知事を前にこう宣言。26日の記者会見でも「開幕を遅らせる判断はない」と重ねて強調したが、状況は厳しさを増しつつある。
遅れが顕著なのは、約50の国・地域が自前で建てる「タイプA」と呼ばれるパビリオン。建設業者との契約交渉が難航しているとみられる。
海外のパビリオン建設は、各国が独自性をアピールする場であり、万博の「華」。ただ、その分デザインが複雑で難易度も高いとされる。
建設資材の高騰でゼネコン業界全体の利幅が縮小する中、業者側は受注に慎重だ。しかも、万博は国の威信が懸かる国家事業。大手ゼネコン関係者は「万が一、間に合わなかったら信用問題になる。リスクは大きいが利益は少ない。われわれも慈善事業でやっているわけではないし…」と警戒感をあらわにする。
さらに、建設業界では物流業界と同様、24年4月から時間外労働に上限規制が適用される「2024年問題」が控える。人手不足に拍車が掛かることは避けられない見通しで、建設業界関係者は「通常の仕事もセーブせざるを得ない状況だ。万博を優先するわけにもいかない」と話す。
◇不協和音
パビリオン整備の停滞打開に向け、日本国際博覧会協会(万博協会)も対策に乗り出した。参加国・地域にデザインの簡素化を求めた上で、協会が代わりに建設業者への発注を担う「建設代行」を提案。言語面などのハードルを取り除き、契約を円滑に進めるのが狙いだ。
今月13日、記者会見した万博協会の石毛博行事務総長は、参加国側と建設業者双方への支援を強調。「年末までに着工すれば開幕に間に合う」との認識を示した。
しかし、この「年内発言」が波紋を広げる。日本建設業連合会の宮本洋一会長(清水建設会長)は21日の会見で「何が根拠なのか分からない」と発言。「工事を請け負うには、きちんとした設計と適正な金額や工期が前提として必要だ」とけん制した。
◇撤退の動きも?
そもそも、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれた前回の万博も、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で開幕が当初予定していた20年10月から1年遅れた。今回は最初から海外勢の準備期間が短いという悪条件を背負っていた。
万博協会内からは「ドバイの延期が響いているのは間違いない」との声も。関西経済連合会の松本正義会長は18日の会見で「個人的な意見」として「(出展から)撤退する国もあるのではないか」と悲観的な見通しを示した。
これに対し、吉村知事は「しっかり1カ国1カ国と協議しているので、今は(撤退の)話はない」と強調。日本維新の会幹部も「日本のゼネコンの威信に関わる。絶対に間に合わせる」とした上で、延期説に対し「延期するくらいならやめるよ」と言い切った。
◇大阪・関西万博を巡る主な動き
2018年11月 25年万博の開催地が大阪に決定
20年12月 会場建設費が1250億円から1850億円に増えると判明
21年10月 1年遅れでドバイ万博開幕
22年 3月 ドバイ万博閉幕
23年 4月 大阪・夢洲で起工式。パビリオン出展者への敷地引き渡し開始
7月 パビリオン整備遅れが顕在化。万博協会が「建設代行」を提案
25年 4月 大阪・関西万博開幕予定