豪との安保条約が停滞 島しょ2国、主権巡り懸念強める
2023年06月09日07時08分
【シドニー時事】太平洋の島国パプアニューギニアとバヌアツがそれぞれオーストラリアとの間で進める安全保障条約の調整が停滞している。島しょ国側が主権を侵害されかねないと懸念を抱き、慎重になっているためだ。両条約を巡る動きの減速は、島しょ地域への関与強化を競う中国と西側諸国の駆け引きにも影響しそうだ。
パプアと豪州は1月、両国軍の共同運用・訓練などを可能にする安保条約を締結する方針で合意し、6月の署名を目指していた。しかし、パプアが自国内の港や空港の利用を米軍に認める防衛協力協定を5月下旬に締結後、主権侵害や米中の軍事衝突に巻き込まれる恐れがあるとして野党勢力などが反発。学生らによるデモも活発化した。
これを受け、パプア政府は豪州側に条約署名の延期を申し入れた。AFP通信などによると、パプアのマラペ首相は6月6日に議会で、一部条項が主権侵害につながる可能性があるとの認識を示し「起草作業は途上にある」と述べた。ただ、どの条項が該当するか詳細な説明を避けている。
一方、バヌアツと豪州は昨年12月に安保協定に署名したが、バヌアツ側で主権侵害への懸念が拡大。議会での批准は早くても今年末にずれ込む見通しだ。バヌアツのカルサカウ首相は6月6日、「協定が一方的でバヌアツの主権を反映していないという汚名を返上しなければならない」と発言。バヌアツ政府の同意がない限り豪軍の入国やデータ収集を認めないことを明確化する方針を示した。
豪州がパプア、バヌアツとの条約発効を目指すのは、中国が昨年、ソロモン諸島と安保協定を締結するなど島しょ地域への影響力拡大を図っているためだ。これに対し、島しょ国側は米豪など西側と中国の双方と関係を維持し、片方の陣営に完全に組み込まれるのを避けようとしている。