完全合意にハードル高く 新興国に警戒感―結束維持が課題・IPEF14カ国
2023年05月28日15時30分
日米など14カ国が参加する経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の閣僚会合は27日、重要物資のサプライチェーン(供給網)分野で実質合意した。昨年9月の正式交渉入り決定後、成果が出たのは初めて。ただ、IPEFを主導する米国が目指す今秋の完全合意はハードルが高い。関税自由化の恩恵がない中、結束維持には具体的な果実が不可欠となる。
◇世界初の協定
貿易相手国に「経済的威圧」をかける中国や、ウクライナ危機が響き、インド太平洋地域の供給網は揺らいでいる。会合では、地政学リスクや新型コロナウイルスの経験も踏まえ、半導体や鉱物資源を念頭に、重要物資を融通する仕組みの創設で一致した。供給網に関する多国間協定は世界初。共同声明は「危機時に影響を受けた物品の適時調達を支援するため協働する」と明記した。
環太平洋連携協定(TPP)を離脱した米国が、インド太平洋地域への関与を求める日本の要請に応え、昨年5月にIPEF発足を宣言。民主主義国の日米豪印などが参加し、中国依存の低減を狙う。経済安全保障の強化に向け、「供給網」「貿易」「クリーン経済」「公正な経済」の4分野で共通ルール作りに取り組む。
◇台湾有事に危機感
アジア太平洋経済協力会議(APEC)の議長国を務める米国は閣僚級での進展を弾みに、11月のAPEC首脳会議に合わせてIPEFの全体像を示したい考え。合意を急ぐ背景には、今後起こり得る台湾有事への危機感がある。
半導体製造に強みを持つ台湾を巡り、米中の緊張関係は高まるばかり。バイデン米政権は、中国による武力侵攻で台湾の半導体生産が停止した場合、世界経済は最初の数年間で年間最大1兆ドル(約140兆円)の打撃を受けると試算する。
「ウクライナは、あすの東アジアかもしれない」。岸田文雄首相は繰り返し強調する。先進7カ国(G7)は今月開催した首脳会議(広島サミット)で中国依存の低減を意識した供給網構築を打ち出した。日本はサミットの流れを引き継ぎ、IPEFで「信頼できるパートナー」(西村康稔経済産業相)と連携を深める。
◇日本が橋渡し役に
閣僚会合では、交渉が最も進む供給網で結束を演出した。閉幕後に記者会見したレモンド米商務長官は「われわれの仕事を仕上げるモメンタム(勢い)に興奮している」と手放しで喜んだ。
ただ、先進国とは経済の発展度合いが異なる東南アジアなど新興国が多く参加するため、残る3分野の合意は容易ではない。新興国では、バイデン政権が重視する労働に関して厳しいルールを求めてくるとの警戒感が強い。
関税減免という「ニンジン」(経産省幹部)がない中、IPEFを完成させるには、先進国が新興国にメリットを提示できるかどうか、日米の手腕が問われる。
日本はTPPなど大型自由貿易協定(FTA)でアジア諸国と結び付きを強めてきた。西村経産相は「質の高いルールとメリットのバランスが取れるように、これからも(IPEFを)主導していきたい」と述べ、先進国と新興国の「橋渡し役」を担う決意を改めて示した。(デトロイト時事)