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歴史的死闘、遠ざかる中国の背中に手をかけた早田〔世界卓球〕

2023年05月27日13時17分

世界卓球選手権女子シングルス準々決勝でフォアを振る早田ひな=26日、南アフリカ・ダーバン(AFP時事)

世界卓球選手権女子シングルス準々決勝でフォアを振る早田ひな=26日、南アフリカ・ダーバン(AFP時事)

  • 世界卓球選手権女子シングルス準々決勝で勝ってメダルを確定させ、感極まる早田ひな=26日、南アフリカ・ダーバン(AFP時事)

 世界卓球選手権個人戦第7日(26日、南アフリカ・ダーバン)、女子シングルス準々決勝で全日本チャンピオンの早田ひな(日本生命)が世界ランク3位の王芸迪(中国)を大激戦の末、4-3(4-11、11-3、11-9、6-11、11-9、8-11、21-19)で破り、ベスト4入りした。27日の準決勝では世界ランク1位の孫穎莎(中国)と対戦する。3位決定戦がないため、この種目で2017年大会の平野美宇(木下グループ)以来のメダルが確定した。

〔写真特集〕卓球女子 早田ひな


◇耐えたマッチポイント9回

 卓球史に残る死闘だった。最終ゲームのスコアは、21点制の時代かと思わせる。ジュースになってから10本を超えるラリーが何回もあった。8-10に始まって計9回、マッチポイントを握られながら追いつき、自らのマッチポイントも3回目でものにした早田。勝った瞬間、涙があふれた。

 「中国人選手に勝つまで本当に長い道のりで、苦しいことや勝てない試合が続いたりしたけど、中国を越えるために毎日頑張って来たので」

 王芸迪は右シェークの攻撃型で、左右の違いはあるが、2人とも両面裏ソフトラバーからのパワフルなドライブを武器とする。ラリーに強い26歳の実力者。東京五輪代表の陳夢、孫穎莎、王曼イク(日の下に立)のトップ3に割って入り、世界ランクで陳夢を抜いて3位に上っている。

 日本選手は3月のワールド・テーブルテニス(WTT)シンガポールスマッシュで平野が3-2で勝ったのが20年の伊藤美誠(スターツ)以来で、早田も2戦2敗だった。

 王芸迪の強打に押されて始まった試合は早田がサービス、レシーブから攻めて追いつくと、後は流れがどちらにも定まらなかった。早田は第6ゲームを8-5から逆転されて落とす。第7ゲームも8-5から5点連取されて逆に追い詰められ、そこからジュースに持ち込んだ。

◇神業ラリーの連続、ミスにもひるまず

 この試合、終盤は双方の攻め方がほぼ一貫していた。相手のフォア前へのサービスから入り、早田は相手のミドルを攻めながら、機を見て逆を突く。王芸迪はバック対バックのラリーを仕掛けてきた。

 現役時代、土壇場でのサービスとレシーブの駆け引きに定評があった水谷隼さんが、動画配信の解説で何度か「早田選手は相手のサービスが来るところが分かっているのだから、レシーブを思い切って変えてもいい」と指摘したが、どちらもサービス、レシーブさえ大きく変えないがっぷり四つ。

 7ゲームの中で見つけた、この試合の得点パターンを確信していたのだろうか。早田は内心、「もうやることないよ」と思ったそうで、苦笑いが浮かんだ場面もあったが、「何が相手に効いているのか、その試合の中で何が効くのかを探って、それをやるためにずっと練習してきた」とも言う。

 ラリーでは高速両ハンドの応酬の中で、相手の球質や動きを瞬時に感知し、揺さぶりや決定打のチャンスをとらえる。神業の連続だけに、互いにミクロの狂いによるミスも多く出たが、ひるまなかった。

 最後は、2球続けてバックハンドをフォアへ送ってノータッチを奪い、1時間14分の死闘に決着をつけた。

◇「これで気持ちが違ってくる」

 中国にとっては紙一重の勝負でも、日本にとって早田にとって、大きな1勝になった。シングルスの出場選手は五輪が1カ国・地域2人なのに対し、世界選手権は5人。多くの場合、ベスト4の前に中国選手と対戦する。日本選手は1995年大会で佐藤利香が現在の張本智和(智和企画)・美和(木下アカデミー)の母、張凌に勝ったのが最後だったが、佐藤はメダルに届いていない。17年大会3位の平野は準決勝前に中国選手と当たらなかった。

 歴史上の意味よりも重要なのは、トップクラスの中国との差が、東京五輪後にむしろ開いたようにも見えていたことだ。五輪代表だった3人以外にも勝てない相手が増え、王芸迪はその1人だった。善戦してもあと1点が取れず、早田は4月のWTTツアーで陳夢に2-3のジュースで敗れている。今大会前の世界ランクは6位まで中国選手が占めた。

 出発直前まで連戦の疲れが見られ、国内大会重視のパリ五輪代表選考方式によって、中国対策に時間を十分割けない悩みも明かしていた。

 そこから短期間でここまで来られたのは、早田自身と「チームひな」が総力を挙げた調整と、ずっと積み重ねてきた中国対策の成果であり、それを孤独なコート上で発揮できた明晰な「卓球脳」と心の強さによるものだろう。

 国際舞台でも、日本女子の先頭に立つ存在になった。「やってきたことは間違っていない。最終的には優勝できる力をつけたいと思います」「中国人選手を一回越えたいという気持ちがあったので、ここで越えられると自分の気持ちが違ってくると思う」と早田。準決勝の孫穎莎戦では、さらにそれを確信に変えるプレーが見られるか。(時事通信社 若林哲治)

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