尾上眞秀、男女を演じ分け堂々の初舞台 かれんな舞、豪快な立ち回りも
2023年05月22日18時15分
俳優の寺島しのぶの長男・初代尾上眞秀が、東京・歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」で初舞台を勤め、化け物退治などで知られる伝説の剣豪・岩見重太郎をしっかりとしたせりふと動きで演じて喝采を浴びている。フランス人の父を持つ10歳の歌舞伎俳優は、女形と立ち役を見事に演じ分け、「ひいま(祖父の尾上菊五郎)みたいにお客さまを喜ばせる役者になりたい」という夢への一歩を踏み出した。
6年前、團菊祭での「初お目見得」で「魚屋宗五郎」の酒屋丁稚(でっち)与吉を演じて以来、本名で数々の舞台に立って達者な演技を見せてきたが、今回が歌舞伎俳優としての正式スタートとなる。
披露演目の「音菊眞秀若武者(おとにきくまことのわかむしゃ)」は、講談や読本などを通して広く知られた安土桃山時代の豪傑、岩見重太郎の狒々(ひひ)退治のエピソードを基に創作された新作で、菊五郎が演出した。眞秀は、題名に自身の名が入り、それを「まこと」と読ませるところが「かっこいい」と気に入っているそうだ。
前半は愛らしい女童姿で登場し、祝宴でかれんな舞を披露。後半では若武者となって豪快な立ち回りを見せる。肩を落とし、膝や腰を使って見せる女形の所作は坂東玉三郎直伝で、女性から男性への変化も鮮やかだ。将来は、同じように女から男に変わる弁天小僧を演じてみたいという。
「音菊―」の上演時に舞台に懸けられる「祝い幕」は、フランスの高級ブランド「シャネル」のサポートで制作された。パステルカラーのシルクオーガンジーのパーツ8900枚が生成りの幕に縫い付けられ、風にそよぐ木の葉のように軽やかに揺れる。点描画風の抽象的な絵柄はセーヌ川にも隅田川にも見え、二つの川に架かる橋のようでもある。「いつかフランスでも歌舞伎をやってみたい」と語る眞秀の門出にさわやかな風を運んでいる。(時事通信社・中村正子)