理想と現実、広がる溝 「核なき世界」壁高く―広島サミット
2023年05月22日07時07分
被爆地・広島で開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)は、核軍縮に関する初の独立文書「広島ビジョン」を打ち出して閉幕した。岸田文雄首相は21日の議長記者会見で「歴史的な意義を感じる」と強調。ただ、「核兵器なき世界」という自身の「理想」と、核依存から脱却できない国際社会の「現実」との溝は広がるばかりだ。
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「世界が全員、広島の市民となった時、地球上から核兵器はなくなるだろう。そうした思いで世界の首脳たちに集まっていただいた」。首相は平和記念公園で原爆ドームを背景に行った会見の冒頭、核廃絶を目指すと力説した。
首相は広島ビジョンについて「理想の実現に向けたG7首脳の決意、行動を示す力強い歴史的な文書になった」と誇った。地元記者が「日本は核抑止力への依存を続け、広島が願う核廃絶への思いとは相いれない」と質問すると、首相は「安全保障上の課題に対処すること、核兵器のない世界という理想に現実を近づけていくべく取り組むこと、これは決して矛盾するものではない」と反論した。
ウクライナに核使用の脅しを続けるロシアに対し、G7が結束して「平和」のメッセージを発したのは一定の成果と言える。G7首脳全員による原爆資料館見学も初めて実現した。バイデン米大統領は「世界から核兵器を最終的、永久になくせる日に向け、共に進んでいこう」と記帳した。
広島ビジョンはロシアの核威嚇を「危険で受け入れられない」と非難した。ただ、核軍縮の進め方については「安全が損なわれない形」との条件が付され、「防衛目的」や「侵略抑止」の場合は使用が容認されるとの立場を盛り込んだ。核保有国の米英仏との「妥協の産物」であることは間違いない。
核の脅威は増し、理想実現への壁は高い。中国は核戦力を増強し、北朝鮮も核・ミサイル開発を加速。ロシアは新戦略兵器削減条約(新START)履行を停止した。米国の有識者は「首相の理想は、世界の現状からかけ離れている」と指摘。日本政府内からも「核抑止と廃絶は両立しない」との声が漏れる。18日の日米首脳会談では、米国の「核の傘」の重要性を確認。首相は「厳しい安全保障環境の下、国民の安全を守り抜く」と核抑止に頼る姿勢を重ねて示した。
広島ビジョンについては厳しい評価もある。国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のダニエル・ホグスタ暫定事務局長は取材に「とても期待外れで怒りを覚える」と酷評。首相が昨年8月に打ち出した核廃絶に向けた行程表「ヒロシマ・アクション・プラン」に触れて「(同ビジョンは)それ以下だ」と語った。