被爆地開催、核廃絶へ機運狙う G7「結束」の広がり焦点
2023年05月18日19時28分
岸田文雄首相にとって今年最大の外交舞台となる先進7カ国首脳会議(G7サミット)が19日、広島市で開幕する。ロシアのウクライナ侵攻や中国の覇権主義的動向など、国際情勢が不安定さを増す中、G7の結束を広範な国々にどう波及させられるかが焦点。首相は、被爆地・広島でライフワークの「核なき世界」に向けた道筋を示すべく、首脳同士の議論を主導する構えだ。
◇「核なき世界」に逆風
「G7として『核兵器のない世界』への決意を改めて確認する。広島にG7が集い、平和へのコミットメント(関与)を示す取り組みを、歴史に刻まれるものにしたい」。首相は開幕に先立つ18日、首相官邸で記者団にこう強調した。
首相が広島を開催地に選んだのは、核廃絶に向けた機運を高めるためだ。19日にはG7首脳とそろって原爆資料館を訪れる予定で、周辺は「いかに被爆の実相を伝えるかを首相は重視している」と明かす。
昨年2月のウクライナ侵攻以降、ロシアはたびたび核兵器の使用をちらつかせて「威嚇」。北朝鮮も核・ミサイル開発を進め、首相の目指す「核なき世界」には逆風が吹いている。
こうした中で、首相は1945年の広島・長崎への原爆投下を除き、核兵器が使用されていない歴史の重みを各首脳に訴え、今後も「核の不使用」を継続する重要性を確認したい考えだ。
首相には、外相時代の2016年にオバマ米大統領(当時)の広島訪問を実現させた「成功体験」がある。サミットでは、首脳声明と別に核軍縮・不拡散に絞った成果文書を出す予定だが、核を巡る厳しい国際情勢は変わらない。自身の掲げる理想に向け、具体的な進展を示せるかが課題だ。
◇対中、新興国カギ
今回のサミットで、首相は(1)法の支配に基づく国際秩序の維持(2)「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国への関与強化―を議論の軸に据える。
背景にあるのは、ウクライナ危機で浮き彫りになった国際社会の分断と、それを助長するかのような中国の動向だ。首相はこの間、ロシアと中国を重ね合わせて「ウクライナはあすの東アジアかもしれない」と訴え続けてきた。外務省幹部は「インド太平洋地域について、日本開催のサミットでしっかり話をしたい」と意気込む。
4月には、訪中したフランスのマクロン大統領が、台湾問題で米国と一線を画す考えを示した。政府関係者は「中国は西側を分断しようとしている」と懸念。首相は、G7が一致して中国をけん制するため、地域を問わず「力による一方的な現状変更」を許さないとのメッセージを打ち出す構えだ。
サミットではまた、「パートナーとの関与強化」をテーマに討論。グローバルサウスが直面する食料・エネルギー危機を取り上げる。食料安全保障に関する成果文書も出す方向で、G7と距離を置く姿勢が目立つ新興・途上国の取り込みを目指す。
首相は、年明けにG7メンバーのうち5カ国を歴訪し、サミットに臨む方針を説明。さらに、3月にインド、大型連休にアフリカ4カ国を訪問し、個別の事情をくみ取る機会を設けてきた。こうした布石を土台に、G7とグローバルサウスの「橋渡し役」を務め、国際社会に波及する発信ができるか。就任以来の「岸田外交」の成果が問われている。