核の現状、識者に聞く 広島サミット(1)
2023年05月17日07時04分
【ワシントン時事】19日に広島で始まる先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、核軍縮が重要テーマの一つになる。ロシアがウクライナ侵攻で核の威嚇を振りかざし、中国の核戦力増強にも懸念が高まる中、どういうメッセージを打ち出すことができるか。世界の核兵器の現状や見通しについて、米国の有識者に聞いた。
ルールなき軍拡新時代=米国の戦力増強必至―ハドソン研究所・村野氏
◇日米、閣僚協議新設を=拡大抑止確保に課題―元オバマ政権高官ロバーツ氏
―オバマ元米大統領は2009年のプラハ演説で「核なき世界」を訴えた。政権内で当時、どのような議論が行われたか。
オバマ氏は核軍縮と抑止力のバランスを取ろうとした。ミサイル防衛や反撃能力、「核で同盟国の日本を守る」という明確な意思表示によって抑止力を高める一方、軍備管理を通じて核の役割を減らそうとした。
―現在、議論の前提は変わったか。
ここ15年ほどで安全保障環境は大きく損なわれた。09年当時、核攻撃の最大のリスクは核を拡散する国家やテロリストと考えられていたが、今はロシアや中国、あるいは北朝鮮というのが一般的な評価だ。
―米国はどう対応する。
米単独で核戦力を減らし続けるべきだという意見と、中国の軍拡に対抗して大幅に核戦力を増やすべきだという意見に分かれている。私の提案は、今後3~5年の間に既存の余剰核弾頭を再び兵器に搭載することだ。将来への備えは必要だが、現時点で兵器を増やすことは勧めない。
―日米が拡大抑止の実効性を高めるためには。
ハード、ソフト両面で改善点がある。ハード面では、北大西洋条約機構(NATO)のように米国の核を共同運用する「核共有」だ。期は熟していないが、議論する価値はある。
ソフト面では、日米の閣僚による協議の枠組み新設だ。敵が核を使ったらどう反撃し、どう紛争を終わらせるかなどを話し合う場で、北朝鮮や中国への強力なメッセージとなる。
―中国は今後、米国との軍備管理に応じるか。
米国が核軍拡と向き合ったのは1950年代。旧ソ連が「軍拡競争から得るものはない」と結論付けるまでに20年を要した。中国が近い将来、軍備管理プロセスに参加するとは考えにくい。
冷戦中、米ソは「戦略的安定性」に共通の利益を見いだしたが、中国とはまだそのような関係にない。米国は二つの核大国に向き合う、過去にない世界に突入しようとしている。
―広島サミットでは核軍縮が大きなテーマになる。
参加首脳は軍縮の誓いとともに、日本が直面する核の脅威を踏まえ、抑止力は確保されているという現実的な発信をする必要がある。
◇ブラッド・ロバーツ氏略歴
ブラッド・ロバーツ氏 オランダ・エラスムス大で博士号取得。09~13年、核・ミサイル防衛政策担当の国防副次官補。オバマ政権の「核態勢見直し(NPR)」の責任者を務めた。退官後、スタンフォード大教授などを歴任。著書に「正しい核戦略とは何か 冷戦後アメリカの模索」。68歳。