改革望む声で躍進 「再解党」懸念も―第1党の前進党・タイ総選挙
2023年05月16日07時14分
【バンコク時事】タイ下院総選挙で第1党となった革新系の野党「前進党」が躍進した背景には、若者らを中心に軍や王室といった現在のタイ政治を特徴付ける存在の改革を望む声があった。ただ、同党の前身となる党は4年前の選挙後に解党処分を受けており、同様の事態が再び起きる懸念もある。
前進党は公約で、徴兵制の廃止を掲げた。さらに、タイではタブー視されてきた王室批判を巡り、不敬罪の改正も盛り込み、バラマキ色の強い経済対策を掲げる他の政党とは一線を画した。
これら国の制度の抜本的な改革を打ち出した政策は、若者を中心に受け入れられた。首都バンコクで14日の投票後に取材に応じた大学2年生のテクさん(20)は前進党支持を明かした上で、「タイの変化が見たい。現状からどう発展できるか知りたい」と話した。
前進党躍進の布石は、2014年のクーデター後の民政復帰を目的とした19年の下院総選挙にあった。反軍を掲げた同党の前身の「新未来党」は、選挙直前の結党だったがSNSを駆使するなどして若者の支持を集め、80議席を獲得して野党第2党となった。
しかし、憲法裁判所は20年2月、当時のタナトーン党首による党への1億9000万バーツ(約7億6000万円)の資金提供は政党法に違反すると判断。新未来党の解党を命じ、同党首ら幹部の政治活動を10年間禁止した。
これを受け、親軍政権に反発する学生らのデモが活発化。批判の矛先は王室にも向けられ、参加者らが不敬罪で逮捕される事態が相次いだ。
新未来党の解党後、残った下院議員らは前進党を設立し、ピタ氏が党首に就任した。ピタ党首の人気は徐々に高まり、タイ国立開発行政大学院の世論調査によると、次の首相候補としての支持率が3月の時点では15%だったが、5月には35%まで上昇した。
勢いに乗る中で総選挙を迎え、前進党は都市部だけでなく中部や北部の地方でも多くの議席を獲得。ピタ氏は「首相になる準備はできている」と意気込んだ。
ただ、ピタ氏は選挙期間中、メディア関連株の保有を巡り選挙管理委員会に告発された。ピタ氏は「株は私のものではなく、心配していない」と説明しているが、政治アナリストは「選管や憲法裁が前進党に不利な判断をする恐れがある」と指摘した。