金融不安、デジタル時代 世界経済に火種続々―G7財務相
2023年05月13日20時00分
新潟市で開かれた先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議は、デジタル時代の金融不安に対処していく姿勢を打ち出した。SNSやインターネットバンキングの発展が引き起こした信用不安は収束するどころか、むしろ再燃しつつある。1年以上続くウクライナ侵攻のほか、米国の債務上限問題という新たな火種も加わり、世界経済の行方は不透明感を増している。
▽緩んだ監視
「以前の『取り付け』は銀行の営業時間だけだったが、今は24時間起こり得る」。鈴木俊一財務相は閉幕後の記者会見で、ネットバンキングの普及がもたらした新たなリスクを指摘。かつては口コミで広がった信用不安が、「SNSによって瞬時に広がる」と警戒感をにじませた。
3月に破綻した米シリコンバレー銀行(SVB)は、SNSでの情報拡散やネット経由の預金流出に加え、監督当局の監視が十分でなかったことも指摘されている。米国はトランプ政権時代にSVBのような中堅銀行への監視を緩くした。
今回の共同声明には「銀行監督や規制の『隙間』に対処する」と明記。日銀の植田和男総裁は「(2008年の)世界金融危機以降に合意された金融制度改革は必ずしも徹底されていない」と指摘し、「実行されていない部分は実行する」と訴えた。
▽信用不安が再燃
SVBの破綻に関して米連邦準備制度理事会(FRB)は、「脆弱(ぜいじゃく)性を完全には理解していなかった」と、監督当局の対応の不備を認め、金融システムの強化に乗り出した。イエレン米財務長官も11日、金融不安に対し、「米国は銀行システムの信頼性向上へ断固とした行動を取ってきた」と説明した。
しかし、5月に入ってファースト・リパブリック銀行が巨額の預金流出に見舞われて破綻。米地方銀行持ち株会社パックウエスト・バンコープの傘下銀行からも預金流出が明らかになり、信用不安は再燃しつつある。金融危機の再来を防ぐには、主要規制当局で構成する金融安定理事会(FSB)が進めている規制・監督上の課題の絞り込みが待ったなしだ。
▽押し寄せるリスク
米国は銀行問題だけでなく、債務上限問題も抱えており、今回の会議でイエレン氏が各国に説明する場面があったという。仮に上限が引き上げられず、米国がデフォルト(債務不履行)に陥れば、株式市場の動揺や米国債の信認低下を通じて、「全世界に影響を及ぼす」(財務官経験者)事態につながりかねない。
ウクライナ侵攻も依然として世界経済の下振れリスクとして横たわる。G7は必要に応じてロシアへの経済制裁を強化する構えだが、貿易制限などには価格高騰という「返り血」が伴う。
世界経済の先行きについて、声明は「不確実性が高まっている」と警鐘を鳴らした。コロナ禍という霧は晴れつつあるものの、不安の芽は次々と頭をもたげている。
◇欧米の信用不安を巡る動き
3月10日 米中堅のシリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻
12日 米中堅のシグネチャー銀行が経営破綻
19日 スイス金融大手UBSがクレディ・スイス救済買収で合意
4月12日 G7財務相・中銀総裁が共同声明で「金融安定へ適切な行動取る」
4月28日 米FRB、SVB監督で対応が十分でなかったと認める検証結果
5月 1日 米中堅のファースト・リパブリック銀行が経営破綻
5月13日 G7財務相・中銀総裁が声明で「銀行規制・監督の『隙間』に対処」