ロシア、「核の威嚇」強める 使用に高いハードル―米の原爆投下を政治利用
2023年05月13日07時14分
ロシアはウクライナ侵攻が長期化する中、「核の威嚇」を続けている。クリミア半島など占領地を死守し、西側諸国のさらなる介入を阻止するための最後の手段として、核兵器を使う可能性を排除していない。被爆地・広島で開幕する先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、広く国際社会を巻き込んで「核兵器使用は決して認められず、極めて高い代償を伴う」という強力なメッセージを発することができるかが焦点になる。
対中ロ、G7結束目指す 「核なき世界」被爆地から発信―広島サミットまで1週間
「国家存立の危機」。ロシアが核を使用できるとする基準は、曖昧さをまとう。2014年に併合したクリミア半島支配は「レッドライン(譲れない一線)」であり、ウクライナの奪還作戦が核攻撃を誘発しかねないとの見方は根強い。
取り沙汰されているのは、戦術核兵器を限定的に使ってあえて緊張を高め、相手に停戦などを強いる「エスカレーション抑止」という理論だ。プーチン政権は侵攻開始当初から核の威嚇を強化。使用が現実味を帯びた。
だが、実際に核攻撃に踏み切れば、厳しい制裁を科されて国際社会から孤立するのは必至で、当のロシアへの悪影響は計り知れない。思い通りの効果を得られるかも不明で、ハードルの高い「使えない兵器」という側面が浮き彫りになっている。ロシアに一定の距離を置く中国が支持せず、見切りを付けるのではないかとみるロシア人専門家もいるほどだ。
ゼレンスキー政権はひるむどころか、大規模な反転攻勢を予告。苦慮するロシアは、戦勝記念日を控えた3日、「ウクライナのドローンによるプーチン大統領暗殺未遂」があったと主張した。高官は「テロリストを抑止・破壊できる兵器の使用を要求する」と述べ、核のハードルを下げる情報戦に出た。
プーチン政権はたびたび米国による広島と長崎への原爆投下に言及。米国への非難に「政治利用」し、被爆者の核廃絶に向けた思いを無視してきた。メドベージェフ前大統領は1月、ロシアがウクライナで核を使用するシナリオに警鐘を鳴らす日米首脳共同声明に反発。「(岸田文雄首相は)切腹するしかない」とSNSに記した。
ロシアは核拡散の動きも見せている。プーチン氏は3月、同盟国ベラルーシに戦術核兵器を配備すると表明。7月1日までに核貯蔵施設が完成予定だ。「核拡散防止条約(NPT)に違反する」(ウクライナ高官)と懸念が出ている。一方、最近では中国へのロシアの高濃縮ウラン提供が報じられ、核戦力の増強につながるのではないかと警戒されている。