「宇宙種子」食料危機救う? 極限環境で耐性探る―IAEA
2023年05月03日13時30分
【ベルリン時事】国際原子力機関(IAEA)と国連食糧農業機関(FAO)が植物の種子を宇宙の極限環境にさらして、品種改良に生かす研究に取り組んでいる。宇宙の力を将来の食料危機を救う一助にしたい考えだ。
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加速する地球温暖化に農作物の環境適応が追い付かなくなっているといわれる。IAEAのグロッシ事務局長は「より強い作物を育て多くの人に届けることができるようになるかもしれない」と期待を示している。
昨年11月、米南部バージニア州ワロップスにある米航空宇宙局(NASA)の施設から、実験データが豊富で比較しやすいシロイヌナズナとモロコシ(ソルガム)の種を打ち上げた。国際宇宙ステーション(ISS)に約5カ月とどまり、先月15日に南部フロリダ州沖に着水した。
宇宙空間は、多様な放射線や無重力、極端な温度差といった地球にはない作用を及ぼす「特殊な実験室」となる。回収した種子に遺伝子レベルでどのような影響が出たか調べ、乾燥や気候の変化に強い作物への品種改良につなげる。早ければ今年10月にも初期段階の研究成果が出るという。
FAOの屈冬玉事務局長は「気候変動に適応し、食の安全保障を強化できる作物の開発につなげたい」と意気込んでいる。
世界銀行によると、昨年6月時点で3億4500万人が食料危機にさらされている。ロシアのウクライナ侵攻に伴う供給網の混乱などのほか、気候変動による生育不足が要因とされる。農家の収入減少や食料価格の高騰で、アフリカでは2030年までに4300万人が新たに貧困ラインを下回る恐れがあるという。