植田日銀、慎重なスタート 「総仕上げ」へ緩和継続―四半世紀の政策検証
2023年04月28日21時32分
日銀は28日、植田和男総裁となって初となる金融政策決定会合で、過去四半世紀にわたる金融緩和を振り返る「多角的なレビュー(検証)」の実施を決定した。ただ、植田総裁は会合後の記者会見で、検証と「出口戦略」を直接結び付けず、当面は現在の大規模な金融緩和を継続する姿勢を強調。2%の物価目標の実現へ「総仕上げ」を目指す植田日銀は、市場とのコミュニケーションに配慮しつつまずは慎重なスタートとなった。
◇2%目標、確信持てず
「もう少し辛抱して粘り強く金融緩和を続けたいというのが正直な気持ちだ」。植田総裁は会見で、市場でくすぶる早期の政策修正観測を否定した。
背景にあるのは、物価の先行きに対する不透明感だ。日銀は28日発表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、2024年度の物価上昇率見通しを前年度比2.0%に上方修正、物価目標に到達する見通しを示した。
ただ、新たに発表した25年度の見通しは1.6%と2%を下回る。植田総裁は先行きの見通しについて「自信の度合いが少し低い」と説明。資源価格の高騰を背景に足元の物価は2%を大きく超えているが、持続的な物価上昇に確信を持てない状況では「拙速な引き締めで2%(目標)を実現できなくなるリスクの方が大きい」と指摘した。
◇検証中も「必要なら修正」
一方、「多角的な検証」は1年から1年半かけて実施する予定。ゼロ金利政策や量的金融緩和など、速水優元日銀総裁の下で植田氏自らも審議委員として一時携わった1998年以降のさまざまな金融緩和策を検証する。
日銀の政策検証を巡っては、黒田東彦前総裁も16年に「総括的検証」、21年に「点検」を実施。いずれも数カ月程度の短期間でまとめ、長短金利操作の導入など政策修正につなげてきただけに、今回の「多角的な検証」も政策修正への思惑につながりやすい。
しかし、今回は1年以上をかけて実施する方針を事前に示すことで、こうした市場の見方をけん制。植田総裁は「目先の政策変更に結び付けてやるわけではない」と強調し、将来の金融政策の知見を得るために実施するとの考えを示した。
もっとも植田総裁は、検証中であっても「必要があれば(政策変更を)実行していく」とも明言した。長期化した金融緩和の検証と実際の政策運営を切り離すことで、自らの自由度を確保したとも言える。
過去25年の金融政策について、植田総裁は「濃淡の違いはあるにせよ効果はあった」と評価しつつ、長引く低金利で「副作用がところどころ出ていることも認めざるを得ない」と述べた。これまでの異例の金融緩和でもなし得なかった2%の物価目標を実現し、金融緩和の正常化に道筋を付けることができるのか、植田日銀の挑戦が始まった。