運航会社社長への捜査続く 安全対策不備、次々と発覚―知床観光船事故、23日で1年
2023年04月22日20時31分
北海道・知床半島沖で死者・行方不明者26人を出した観光船「KAZU I(カズワン)」の沈没事故は、23日で発生から1年となる。運航会社「知床遊覧船」(斜里町)は事故後、ずさんな安全対策や法令違反が次々と発覚。海上保安庁は、悪天候が予想される中で出航を判断したとして、業務上過失致死容疑などで同社の桂田精一社長(59)の捜査を続けている。
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事故は昨年4月23日午後に発生。カズワンは同日午前、斜里町のウトロ港を出航後、知床岬で折り返して帰港する約3時間のコースを予定していたが、午後2時ごろの連絡を最後に消息を絶った。船体は岬南西の「カシュニの滝」付近の海底で発見。これまでに乗客乗員計20人の死亡が確認され、現在も乗客6人の行方が分かっていない。
事故当日、現場付近には強風や波浪注意報が出され、地元の漁船は出航を取りやめていた。しかし、桂田社長らは海が荒れたら引き返す「条件付き運航」で出航を決めていた。斉藤鉄夫国土交通相はこの運用を「あり得ない」と批判。海保は出航判断に過失があった疑いがあるとして、社長の立件も視野に捜査している。
また、会社事務所の無線アンテナが破損し、カズワンと直接交信できる状況ではなかったことも判明。同社は船長の携帯電話を陸上との通信手段として国に申請していたが、事故現場付近では圏外だったとみられ、海保への通報も乗客の携帯電話を借りて行われていた。
海上運送法施行規則は、運航管理者の要件を「実務経験が3年以上」と定めているが、同社は経験がない桂田社長を管理者に選任し、要件を満たしていると国に虚偽申請していた。運航管理者は船舶の航行中、事務所にいて船長と定期的に連絡を取る必要もあったが、桂田社長は事故当時事務所を不在にしていた。国交省は昨年6月、これらの違反を理由に同社の事業許可を取り消した。
23日は斜里町で追悼式が営まれ、乗客の遺族のほか、斉藤国交相や海上保安庁の石井昌平長官が出席する予定。