早期解散、与野党に観測 支持回復、首相に追い風―少子化・原発がハードル
2023年03月28日19時49分
岸田文雄首相が6月21日の通常国会会期末までに衆院解散・総選挙に踏み切るとの観測が与野党で浮上してきた。2023年度予算が28日に成立。支持率が回復基調に転じ、日韓首脳会談やウクライナ電撃訪問で一定の成果を挙げたことが背景にある。首相の最近の動向も早期解散の見方を後押ししている。
◇政権運営に自信
予算成立を受けて、首相は28日、国会内の公明党控室を訪れ、「統一地方選が始まりますね」と声を掛けた。これに対し、山口那津男代表は「解散じゃないですよね」とくぎを刺した。
公明党は統一地方選に総力を挙げており、早期解散に慎重な立場。首相はすぐさま「統一地方選です」と応じ、山口氏は「目前の重要な選挙に集中することを首相は明確にされた」と記者団に強調した。
衆院解散は首相の専権事項だが、会期末は前回衆院選からおよそ1年8カ月で、議員任期4年の半分にも満たない。従来は、来秋の自民党総裁選直前か、早くても今秋との見方が支配的だった。
会期末解散論の背景には、世論調査で支持率が持ち直し、首相が政権運営に自信を深めているとみられることがある。昨年は4人の閣僚更迭に追い込まれたが、今国会では23年度予算の審議が順調に進んだ。
外交では、日韓首脳会談で関係改善に道筋を付け、ウクライナ訪問を通じて存在感を示した。5月には、地元広島で先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)を主催する。内政では、6月に子ども予算の「倍増」に向けた大枠をまとめる。野党の選挙準備も遅れており、「政策をびしっと示せば勝てる」(自民党関係者)との期待がある。
今月15日夜には、首相は自民党の元宿仁事務総長と2時間にわたって会食した。元宿氏は安倍晋三氏ら歴代首相が解散判断の際に意見を聞いたことで知られる古参の党職員。政界には「首相が極秘の情勢調査を命じた」(立憲民主党関係者)とのうわさが駆け巡った。
衆院解散が取り沙汰されることで、自民党内の引き締め効果が期待でき、防衛増税などで党内に異論を抱える首相には好都合と言える。岸田派ベテランは「解散風は吹かせておけばいい」と語る。
◇信任問われる補選
解散時期は、最短で4月説もささやかれるが、少子化対策の議論が中断することや、衆院小選挙区の「10増10減」に伴う与党内の選挙区調整などから困難との見方が強い。
会期末解散に踏み切る場合も、首相にはいくつもの越えなければならないハードルがある。少子化対策財源の確保が課題となり、後半国会では既存原発の「60年超」の運転を可能にする関連法案や、防衛費の大幅増額に向けた財源確保法案の審議が焦点だ。
異論も根強いこうした政策について世論を説得できるのか。政権への「信任投票」(党関係者)と位置づけられるのが4月23日投開票の衆参5補欠選挙だ。選挙結果次第では解散論が勢いづく可能性もある。
早期解散には自身の政権安定を優先させたとの批判が首相に向かうリスクもあり、首相は28日、記者団の取材に対し「先送りできない課題に取り組む。それしか考えていない」と述べるにとどめた。ただ、首相と日頃連絡を取り合っている自民党幹部は「会期末のタイミングは気をつけた方がいい」と首相の胸中を推し量った。