利上げ断行で信頼維持 与信環境悪化も警戒―物価抑制と金融安定、板挟み・米FRB
2023年03月23日15時10分
米連邦準備制度理事会(FRB)は22日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、0.25%の利上げを断行した。シリコンバレー銀行(SVB)など米中堅銀行2行の経営破綻に端を発した信用不安がくすぶるものの、物価安定を責務とする中央銀行としての信頼を守るため、利上げ継続の「既定路線」を貫いた。一方、不安の拡大を背景に銀行融資など与信環境は悪化。「事実上、利上げと同じ」(パウエルFRB議長)と認め、景気下振れや失業増の可能性に身構えている。
◇状況一変
「(SVB破綻から)12日しか経過しておらず、不透明感があまりに大きい」。パウエル氏はFOMC後の記者会見で、一変した状況に戸惑いを隠さなかった。破綻の数日前には、根強いインフレを抑え込むため、利上げ幅を0.5%へ再拡大する可能性さえ示唆していた。
しかし、SVBは預金の取り付け騒ぎに見舞われ、動揺は他の米地銀に波及。さらに、スイス金融大手クレディ・スイスがあっという間に経営危機に陥り、同国内のライバルUBSに救済買収されるなど、不安の連鎖は欧州に飛び火した。FRBは新たな資金供給策を導入するなど、金融安定に追われた。
パウエル氏は「過去2週間の出来事のため、家計や企業への融資条件がいくらか厳しくなり、需要や雇用などを圧迫する可能性がある」と分析。インフレ退治を掲げた金融引き締め路線から一転、利上げ停止すら検討していたことを明かした。
利上げ見送りが選択肢として浮上する中、FRBがあえて追加利上げに踏み切ったのは、インフレを許容しない姿勢を明示することで、消費者や企業の長期的な物価見通しを抑え込むためだ。パウエル氏は「言葉だけではなく行動によっても、信頼を維持することが重要だ」と理解を求めた。
また、クレディ・スイス救済後、金融市場が落ち着きを取り戻したことも、追加利上げの判断を後押ししたとみられる。
◇金融不安、長期化も
今回の銀行部門の動揺は、FRBが昨年3月以降、1年あまりで合計5%近くの大幅利上げを進めたことも一因とみられる。各行が低金利期に積極的に行っていた債券投資が多額の含み損を抱えたためで、大手格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは「経営環境が急速に悪化した」として、米銀行システムの見通しを「安定的」から「弱含み」に下方修正した。
米銀の経営悪化がFRBの金融引き締めを受けた「構造要因」なら、金融を巡る不安は長引きかねない。パウエル氏は信用不安が「持続するほど、融資基準は一層厳しくなる。動向を見守る必要がある」と、警戒感をあらわにした。(ワシントン時事)