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松本幸四郎、悪役の系譜に挑む 父・白鸚が初演した「花の御所始末」

2023年03月22日17時30分

「悪の華」を描く異色作の40年ぶりの再演。「人間が根底に持っているものが求められている時なのかなと思ったりします」と語る松本幸四郎(松竹提供)

「悪の華」を描く異色作の40年ぶりの再演。「人間が根底に持っているものが求められている時なのかなと思ったりします」と語る松本幸四郎(松竹提供)

  • 暴君と聞いてイメージするのは「カリスマ性と自分を信じる力を持っていること」と話す松本幸四郎=東京(松竹提供)
  • 「花の御所始末」で殺りくを重ねる足利義教を演じる松本幸四郎(c)松竹
  • 不敵な笑いを浮かべる足利義教を演じる松本幸四郎(c)松竹

 歌舞伎俳優の松本幸四郎が、東京・歌舞伎座「三月大歌舞伎」の第一部「花の御所始末」で、周囲の邪魔者を次々とあやめていく冷酷非道な男を生き生きと演じている。暴君と恐れられた室町幕府の六代将軍足利義教の一代記。「ここまで悪を貫き通す芝居は珍しい」と幸四郎は言う。

 「昭和の黙阿弥(もくあみ)」と称された劇作家・宇野信夫が、幸四郎の父・松本白鸚のために書き下ろした作品。1974年の初演は東京・帝国劇場で「帝劇新歌舞伎」として三田佳子ら女優も参加して上演された。83年に新橋演舞場で再演。当時10歳だった幸四郎は併演の「勧進帳」に太刀持役で出演していたが、「お芝居=歌舞伎、歌舞伎=『勧進帳』だったので、『ギャー』とか『ワー』というお芝居、という印象しかなかった」と振り返る。

 三代将軍足利義満(河原崎権十郎)の次男・義教は、父の腹心である管領・畠山満家(中村芝翫)と手を組み、父や世継ぎの兄・義嗣(坂東亀蔵)を殺害して将軍の座に就くが、やがて満家も始末する。宇野は義教をシェークスピアの「リチャード三世」に重ね合わせて創作したとされるが、義教が自らあやめた者たちの亡霊に苦しめられる後半の展開は「マクベス」のようでもある。

 40年ぶりの再演に当たって、当時の映像が残っていなかったため、白鸚が演じた舞台の音源と専門誌『演劇界』の舞台面の写真などを頼りに舞台を復元したという。初演の帝劇のプログラムもインターネットオークションサイトで落札。「自分の『花の御所始末』を目指したい」と開幕前に語った通り、美貌がさえるダークなキャラクターを作り上げている。

 これまでも、「リチャード三世」を下敷きにした劇団☆新感線の「朧の森に棲む鬼」などのピカレスク物を幾つも演じているが、今年は年明けから悪人役が続いている。1月は歌舞伎座「十六夜清心」で、遊女と心中を図ったが死に切れず、悪党となってゆすりを働く清心役に初挑戦した。今月の義教役に続いて、4月には東京・明治座「壽祝桜四月大歌舞伎」(8~25日)の「絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)」で武士と町人の2人の極悪人を演じる。この30年ほどの間、片岡仁左衛門が当たり役としてきたが、五代目松本幸四郎が1810年に初演し、祖父の初代松本白鸚、そして父も演じたゆかりの深い作品だ。

 幸四郎は自らを評して「こんなにいい人なのに」と笑いを誘いながらも、「(悪は)ある意味、誰もが持っている人間の感性の部分だと思う」と話す。今月の義教については「目的が何なのかが分からないところが面白い。冷徹というより、何をしても動じない強さが怖さにつながればいい」と役を掘り下げている。

 歌舞伎座「三月大歌舞伎」は26日まで。(時事通信社編集委員・中村正子)

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