イラク難民、消えない恐怖 戦後20年も帰国果たせず
2023年03月21日07時14分
【カイロ時事】2003年のイラク戦争から20年が過ぎた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、イラクを逃れた難民は世界で約35万人に上る。「戦争がなかったら、人生はどうなっていただろう」。自問したまま、多くは今も帰国を果たせていない。
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「いつも思い出すのは、家の前の道だ。友達とサッカーをして遊んでいた」。約5600人のイラク難民が暮らすエジプト。カイロの巨大な集合住宅が立ち並ぶ中で、イラク難民のカラールさん(27)は、20年以上前の光景を述懐した。「イラクは美しかった。幸せな記憶は全てイラクでのものだ」。表情は自然とほころんでいた。
06年1月、両親、兄、姉と一緒にカイロ空港に降り立った。カラールさんは当時10歳。以来、イラクには一度も戻っていない。
イスラム教シーア派とスンニ派の対立が激化した当時のイラクでは、子供の誘拐が頻発し、近所で爆弾テロも発生。カラールさんの知り合い数人も亡くなった。治安の悪化から身を守るため、家族で祖国を離れた。
エジプトに来たばかりの頃は特に過酷だった。母と姉は泣き続け、子供の安全を過剰に心配する両親はカラールさんに外出を許さず「監禁されているようだった」。学校に通えたのは、エジプトに来て2年後だ。
エジプトでは、短期の在留しか許可されず、カラールさんに正社員の職は望めない。不安定な生活で、結婚は諦めた。
「イラクに帰ろう」。治安は改善したと両親に説明しても、不安と恐怖がよぎる2人はうなずかない。「両親は私の全てだ」。自分だけ帰る選択肢はない。