岸田首相、疑念封じ「改善」演出 対中朝ロを優先、米が後押し―未来志向も残る懸案・日韓首脳会談
2023年03月16日21時00分
東アジアの安全保障環境が厳しさを増す中、岸田文雄首相は16日、来日した韓国の尹錫悦大統領と会談し、安保や経済面での連携強化に踏み出した。焦点の元徴用工問題で日本側には蒸し返されることへの懸念も残るが、尹氏を夕食会でもてなすなど、内外に関係改善をアピールした。
「自尊心」より現実外交 「ウィンウィンの国益」目指す―韓国大統領
「本格的な春の訪れを迎えたこの日に、日韓関係の新たな章を開く機会が訪れたことを大変うれしく思っている」。首相が会談の冒頭でこう切り出すと、尹氏も「(会談は)両国関係の新しい出発を知らせる特別な意味合いを持つ」と応じ、場は友好ムードに包まれた。
◇わずか10日後
両首脳は昨年9月に米ニューヨークで「懇談」、同11月にはカンボジア・プノンペンで約3年ぶりの正式会談を行うなど、対話を積み重ねてきた。
首相が政権運営で頼りとする麻生太郎自民党副総裁も「地ならし」のため、11月に訪韓して尹氏と会談。政府関係者によると、麻生氏は尹氏を高く評価し、首相にも好感触を伝えたという。
この間、元徴用工問題の解決策についても両政府はギリギリの調整を続けた。
尹政権は今月6日、韓国内左派の反発を受けながらも、被告日本企業の賠償を肩代わりする解決策を発表。日本政府は「尹大統領はよく決断した」(外務省幹部)と評価し、尹氏が望む早期訪日が、発表からわずか10日後に行われることが固まった。
会談の調整では、夕食会の「2次会」の場所として尹氏の思い入れが強いオムライスを提供する老舗洋食店を選ぶなど、日本側は最大限配慮した。
◇北朝鮮は反発
日韓両政府が「未来志向」の関係再構築を急いだのは、ロシアのウクライナ侵攻や中国の軍事力増強などで、東アジアの安保環境の不透明感が高まっているためだ。
日韓両国と同盟関係にある米国も後押しした。日本外務省関係者は「米国は日米韓3カ国協議の場などで、日韓連携の重要性を説き続けてきた」と明かす。
16日の会談で、日韓両首脳は外務・防衛当局の対話復活と新たな経済安保対話の枠組みの創設を決定。北朝鮮ミサイルの発射情報など両国間の軍事情報の迅速な共有に役立つ軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の正常化でも合意した。
日米韓の狙いをけん制するかのように北朝鮮は16日朝、米本土を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)級1発を発射した。
◇拭えぬ不信感
日韓両国が互いの不信感を払拭(ふっしょく)できたわけではない。元徴用工問題の解決策を巡り尹政権に対する韓国世論には厳しいものがあり、日本国内にも「韓国側が再びゴールポストを動かすのでは」との疑念がくすぶる。
首相が外相として携わった2015年の慰安婦合意では、「最終的かつ不可逆的な解決」を確認したものの、文在寅前政権によって事実上白紙化された。18年には韓国軍艦艇による自衛隊機への火器管制レーダー照射問題が起きた。
元徴用工問題でも、韓国側の政権交代で被告企業に賠償金を求める「求償権」が復活する可能性は残る。
自民党保守派の若手は「あくまでもボールは韓国にある。日本は韓国側の対応を冷静に見極めるべきだ」と、首相に慎重な対応を求めた。