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異例の春闘、満額ラッシュ 人材獲得に危機感も―今後の焦点は中小に

2023年03月15日20時15分

電機大手の回答状況をボードに書き込む金属労協の職員=15日午前、東京都中央区(代表撮影)

電機大手の回答状況をボードに書き込む金属労協の職員=15日午前、東京都中央区(代表撮影)

  • 2023年春闘の集中回答日を迎え、記者会見する金属労協の金子晃浩議長(中央)=15日午後、東京都中央区
  • 製造系中小企業が加盟する産業別労働組合JAMの事務所でホワイトボードに回答状況を記入する職員=15日午前、東京都港区

 2023年春闘は15日、大手製造業の集中回答日を迎え、過去最高水準の要求に対し満額回答で応じる企業が相次いだ。歴史的な物価上昇局面で、優秀な人材を囲い込むため早々に賃上げを表明する例も目立ち、「異例の春闘だ」(労働組合関係者)との声が上がる。日本全体で物価上昇に負けない賃上げを実現できるのか。今後、中小企業の労使交渉に焦点が移る。
 ▽自動車口火で相乗効果
 口火を切ったのは大手自動車。トヨタ自動車やホンダは、労組側が要求書を提出した翌週には満額を回答、交渉は2月中に事実上決着した。日産自動車や三菱自動車も集中回答日を待たずに満額を表明した。
 電機連合は25年ぶりの高水準となる月7000円のベースアップ(ベア)要求を掲げたが、大手各社は15日、そろって満額を回答した。自動車や電機などの産業別労組が加盟する金属労協の金子晃浩議長は同日の記者会見で、「産業間の連携で相乗効果を発揮できた」と、自動車の先行回答を高く評価した。
 大手電機の満額ラッシュについて、日本電機工業会の小笠原浩会長は、人材獲得競争の激化により「電機だけ遅れるわけにはいかないというのもどこかで働いていると思う」と分析。初任給を1万~2万5000円と大幅に引き上げる企業も目立ち、電機連合の神保政史中央執行委員長は「(賃金の)底上げにもつながる」と期待感を示した。

 ▽継続的な賃上げを
 賃上げの流れを経済の好循環につなげるには、雇用の7割を占める中小企業の動向がカギを握る。食品機械などを手掛けるフジワラテクノアート(岡山市)は、既にベアを含め4%程度の賃上げを決めた。藤原加奈副社長は「(人材確保のため)賃上げは将来への大きな投資だ」と話す。
 金属産業の中小企業が多く加盟する産別労組JAMによると、現段階での賃上げ率は4.5%に上る。回答は大手が先行しているが、安河内賢弘会長は「足元の物価上昇を超える回答が得られた」と強調。その上で、「満額回答の流れを中小でもつくっていきたい」と話す。
 ただ、大企業と比べ中小の経営環境は厳しい。原材料費や電気代の高騰が続く一方、製品価格へのコスト転嫁は十分に進んでおらず、石川県の繊維関連企業カジグループを率いる梶政隆氏は「(賃上げの)原資が全くない状況だ」と吐露する。
 JAMによると、中小のベア回答は500~9000円と「二極化」している。加盟労組の7割を中小が占める流通・繊維などの産別労組UAゼンセンの松浦昭彦会長は「(交渉は)順風満帆ではない」と、厳しい見通しを示す。
 野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、賃上げが相次ぐ今春闘について「企業の行動が構造的に変わったためではない」と指摘し、物価上昇が鈍化すれば機運もしぼむと見る。労働問題に詳しい日本総合研究所の山田久副理事長は「重要なのは来年以降も賃上げが継続的に行われること。そのための仕組みづくりが大事だ」と話している。

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