ロシア、ザポリージャ原発を「核の盾」に 地元市長インタビュー
2023年03月13日17時05分
【ワルシャワ(ポーランド)AFP=時事】ウクライナ・ザポリージャ原子力発電所はもはや電力を生み出しておらず、ロシアの軍事基地に成り下がってしまった──。地元エネルホダルのドミトロ・オルロフ市長(37)はAFPのインタビューで、こう嘆いた。(写真は資料写真)
ウクライナ南東部の同原発をロシア軍が占領したのは昨年3月4日。軍事侵攻開始後、まだわずかしかたっていなかった。
国際原子力機関(IAEA)は、原発周辺が攻撃されている点を懸念。安全区域の設定を呼び掛けている。
オルロフ市長は、「(ロシアは)1年に及ぶ占領期間中に欧州最大の原発を軍事基地に変えてしまった」と語った。
ザポリージャ原発はこれまでに何度もトップニュースになり、1986年にウクライナで起きたチョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故と同じような大惨事が再現されるのではないかとの懸念が広がった。
そうした大惨事に至るのを回避するためウクライ側は「反撃してこない」という「事実」にロシア軍は付け込んでいると、モルロフ氏は話す。
原発周辺への攻撃をめぐっては、ウクライナ、ロシア双方が、相手側に非があると難じ合っている。今週、ザポリージャ原発はロシア軍による攻撃の影響で、外部電源を一時喪失した。
オルロフ氏に言わせれば、ロシア軍は装備や弾薬、人員の安全を確保するため原発を「核の盾」として使っている。
オルロフ氏によると、原発敷地内を含むエネルホダル市には現在、少なくとも1000人のロシア兵が駐留している。
ドニエプル川の川岸に広がる同市では、ロシアの侵攻に伴い、住人は5万3000人から1万5000人程度に減った。
■職員数、危険水域に
「占領部隊の大半は原発内に陣取っている。その方が安全だからだ」。オルロフ氏自身は昨年4月、ウクライナ支配下のザポリージャ市に拠点を移した。
ザポリージャはエネルホダルから約120キロ離れている。しかし、オルロフ氏は、エネルホダルの住民と定期的に連絡を取り合っているという。
エネルホダルからの住民の大量脱出は、同市自体に影響を及ぼしただけでなく、原発の人員態勢にも影を落としている。
国営原子力企業エネルゴアトムによれば、職員の半数近くが原発を去った。侵攻前には1万1000人を抱えていたが、残っているのは約6500人だ。
同社がAFPに明らかにしたところによると、専門職数千人がウクライナ支配地域に逃れた。残った職員のうち、約2600人はロシアに「協力する」ことに同意した。
「人員面で大変な問題が起きている。そしてそれは安全面にも響いている」とオルロフ氏。人手不足の中、残った職員は休日も取れず過重労働を強いられているという。
ザポリージャ原発はかつて、国内電力需要の20%を賄っていた。侵攻開始後の数か月間は、攻撃にさらされる中でも操業を続けていた。
現在、ソ連時代に建造された6基の原子炉は停止され、もはや電力を供給していない。電力網にはまだつながっているが、それは施設内で必要な電力を賄うためだ。
■軍事解決はない
オルロフ氏は、ロシアは「数か月の間にザポリージャ原発をロシアの電力網に接続しようとしたが、奏功しなかった」と語る。
エネルゴアトムによれば、送電網が損傷しているため、ロシアは原子炉を稼働させられないでいる。ウクライナ国内の電力網に送電線1回線でつながっているだけだ。
同社は、ロシアが自国の専門家を派遣してきたとしても、「技能は不十分で本格稼働は無理」とみている。
問題は、原発の閉鎖によって「システムおよび装備の段階的な劣化」がもたらされることだ。
同社はまた、国内の電力網につながっている最後の1回線が寸断された場合、「原発自体の事故あるいは放射能漏れにつながるリスク」があると警告している。
米シンクタンク「戦争研究所」は、ロシア側はザポリージャ原発をめぐる「脅威のエスカレーション」を通じ、南部における「ウクライナの将来の反攻を抑止しようと試みている」可能性があると分析している。
IAEAは昨年9月、同原発に監視員を派遣。施設周囲に安全地区を設定する措置を取りまとめようとしているが、交渉は暗礁に乗り上げているもようだ。
ラファエル・グロッシ事務局長は2日、ツイッターに、監視員の交代が完了したとし、ヘルメットと防弾チョッキを着用した監視員が損壊した橋を渡って原発に向かって歩いている様子を映した動画を投稿した。
オルロフ氏は「彼ら(監視員)が現場にいるという事実自体がプラスになっている」と指摘。外交的な解決に委ねるしかないと話す。
「自明のことだが、軍事的な手段によって欧州最大の原発を非軍事化したり、占領状態を解こうとしたりする者はいないからだ」【翻訳編集AFPBBNews】
〔AFP=時事〕