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「心のよりどころになれば」 全国に散った檀家、掃除でつなぐ―福島県南相馬市の住職田中さん・東日本大震災12年

2023年03月12日07時13分

同慶寺住職の田中徳雲さん=2月18日午後、福島県南相馬市

同慶寺住職の田中徳雲さん=2月18日午後、福島県南相馬市

  • 清掃結いで同慶寺本堂を掃除する檀家の人々=1日午前、福島県南相馬市
  • 同慶寺の清掃結い後、お茶会を楽しむ檀家の人々=1日午前、福島県南相馬市

 福島県南相馬市小高区の同慶寺住職の田中徳雲さん(48)は、東京電力福島第1原発事故で全国に散らばった檀家(だんか)の「心のよりどころ」をつくろうと、境内を掃除する集いを続けている。「原子力災害の影響は長い。寺が人と人をつなぐ場所になれば」と話す。

〔写真特集〕東日本大震災 100枚の記録

 小高区は、原発事故で一時全域に避難指示が出された。田中さんも家族6人で寺から離れ、車で避難生活を送った。ただ、檀家のことは常に気掛かりで、携帯で安否確認の連絡を取ったり、自宅までガソリンや生活物資を届けたりしてきた。
 事故から半年後、境内を掃除する「清掃結い(せいそうゆい)」を始めた。「掃除は口実。避難所の生活で皆おかしくなってきていた。故郷に戻って心のバランスを取るために声を掛けた」と明かす。当時、小高区は警戒区域に指定され立ち入りが制限されていたため、一時立ち入りの許可と掃除用具や参加者を運ぶための軽トラックやバスの貸し出しを求め、福島県庁に直談判した。
 第1回は約70人が参加。久しぶりに顔を合わせた檀家の人々の中には、津波で家族や家をなくした人もいたが、つかの間の再会に話は絶えなかったという。回を重ねるうち、「掃除の時に行けば小高の人に会える」と全国17都道府県に散り散りとなった檀家に伝わり、北海道や九州地方からも集まるようになった。
 田中さんは、原発事故の影響は今も檀家の生活に影を落としていると話す。慣れ親しんだ故郷での暮らしを選んだ人は子どもや孫と離れることもある一方、家族との暮らしを優先して避難を選択した人は故郷の友人らと日常的に会えなくなる。「放射能に対する不安は人それぞれ。事故がきっかけで離れ離れの生活になる人は多い」と語る。
 清掃結いは月2回、今も続く。本堂で般若心経を読経した後、女性は堂内、男性は外の掃き掃除をする。掃除の後は、田中さん手製の薬草をブレンドしたお茶と菓子を手に、檀家の人々は思い思いに話をする。田中さんは「寺に足を運ぶきっかけはなんでもいい。離れていても気持ちに寄り添っていきたい」と笑みを浮かべた。

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