歴代最長10年、黒田日銀に幕 限界挑戦も目標届かず―植田氏に託す「出口戦略」
2023年03月10日20時17分
歴代最長となる2期10年の任期満了を1カ月後に控え、黒田東彦日銀総裁にとって最後の金融政策決定会合が10日に終了した。2013年の就任直後に国債の買い入れを倍増させる「異次元」の金融緩和を断行し、金融政策の限界にも挑んできた。しかし、2%の物価上昇目標は達成できないまま退任する。長引く低金利の副作用も目立つ中、目標の達成と「出口戦略」は次期総裁に就く経済学者の植田和男氏に託すことになる。
植田日銀が始動、当面は緩和維持 遠からず政策修正で「金利上昇」か 【解説委員室から】
◇突き進んだ緩和路線
「やるべきことはやった」。最後の決定会合を終えて記者会見に臨んだ黒田総裁は10年間の任期を振り返り、大規模緩和の成果を強調した。
13年3月の就任会見で「大胆な緩和を進めることで2%を達成すべきだ」と語り、2年程度での目標実現に自信を見せた黒田氏。「必要なことは何でもやる」との予告通り、翌4月には金融市場で後に「黒田バズーカ」と呼ばれる異次元緩和を打ち出し、株高・円安を演出した。
その後も黒田総裁は一貫して緩和路線を突き進んだ。消費税率の引き上げなどを機に再びデフレ圧力が台頭すると、「飛べるかどうかを疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう」とピーターパンの物語の一節を紹介して2%目標の達成をあきらめない姿勢をアピール。16年にはマイナス金利政策に加え、中央銀行が長期金利を操作するという世界でも例のない緩和策に踏み込んだ。
ある日銀OBは、黒田総裁を「一度決めるとぶれない。安定感は抜群だ」と評する。安倍晋三政権が掲げた経済政策アベノミクスのけん引役だった黒田日銀。しかし、任期終盤に入り、その安定感に陰りが見え始めた。
◇新体制への「遺産」
きっかけは、ロシアによるウクライナ侵攻を背景とする原材料価格の上昇だ。食料品の値上げが相次ぐ中、黒田総裁は昨年6月の講演で「家計の値上げ許容度も高まっている」と発言して批判が集中、国会で陳謝・撤回に追い込まれた。
さらに欧米の中央銀行が相次ぎ利上げに踏み切る一方、日銀が緩和継続にこだわったことで急激に円安が進行し、輸入物価の上昇に追い打ちをかけた。政府が物価高対策を打ち出す中で日銀の硬直的な政策運営に懸念が広がった。
10年にわたる大規模緩和について、黒田総裁は会見で「効果的で持続的な金融政策を行ってきた」と強調したが、その副作用も積み上がっている。国債の大量購入により、日銀の保有国債は約125兆円から580兆円超と4倍以上に膨張、発行残高の半分を占めるに至った。黒田氏は「負の遺産と思っていない」と言うが、次期総裁の植田氏には金利急騰を招かずに保有国債を圧縮するという難問が待ち受ける。
また、長期金利を抑え付けたことで、債券市場では利回りにゆがみが生じている。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美チーフ債券ストラテジストは「植田総裁就任直後の4~6月中に長期金利操作の撤廃など政策修正に動く可能性がある」と見通しており、再び投機筋による国債売りにつながりかねない。
黒田総裁は後任の植田氏について「著名な経済学者で、日銀審議委員も務めた最適な人」と評価した。しかし、新体制にはあまりにも重い大規模緩和の「遺産」を残したことになる。