アフガン避難民女性のバーチャルツアー 美しい祖国を世界へ

2023年03月09日16時01分

【ミラノ(イタリア)AFP=時事】イスラム主義組織タリバンが実権を掌握したアフガニスタンを脱出した元ツアーガイドの女性が、新天地イタリアから祖国のバーチャルツアー(仮想旅行)を開催している。収益の一部は、アフガン女性のための秘密の英語教育資金に充てられる。(写真は、伊ミラノの自宅からバーチャルツアーを開催するファティマ・ ハイダリさん)
 光沢のあるタイル装飾が施されたモスク、要塞(ようさい)やにぎわうバザール。ファティマ・ハイダリさん(24)は、伊ミラノの寮から「ズーム」を使ってアフガン西部ヘラートを案内する。
 ハイダリさんはヘラートでツアーガイドをしていた。2021年8月にタリバンが実権を掌握すると、アフガンを脱出。現在はミラノのボッコーニ大学で国際政治を学んでいる。
 今ではアフガンを訪れようという勇気ある観光客はほぼいなくなったが、外国人に祖国の美しさを知ってもらいたいと今でも熱い気持ちを抱いている。
 「アフガニスタンと聞くとみんな、戦争やテロ、爆弾を思い浮かべる」と、ハイダリさんはAFPに語った。だが、アフガンの素晴らしさ、文化、歴史を世界に紹介したいという。
 英ツアー会社、アンテイムド・ボーダーズを通じて行われるツアーにはこれまで、英国やオーストラリア、ドイツ、インドなどから参加者があった。
 ツアーの収益の3分の1は、アフガニスタンの若い女性のためひそかに開催されている英語教室の資金に充てられる。
 タリバンは実権を掌握してから、中等教育や大学での女子教育の停止を命じるなど、女性への締め付けを強めている。
 ハイダリさん自身、常に本を手に入れるため闘ってきた。それが教育への情熱につながっている。
 7人きょうだいの末っ子として生まれ、中部ゴール州の山地で育った。両親はハイダリさんに羊の世話をさせた。
 「男の子の通う学校がある、川辺の牧草地に羊を連れて行き、こっそり授業を聞いていた」と当時を振り返る。「ペンがなかったので、砂や土に書いた」
 ■「生きたまま墓場に埋められているようなもの」
 10歳の時、家族でヘラートに移住した。そこでも一家にハイダリさんを学校に行かせる余裕はなかった。授業料や教科書代を捻出するため、3年間家で夜な夜な伝統衣装を作った。2019年、両親を説得してヘラートの大学に入学し、ジャーナリズムを学び始めた。
 「両親は私に完璧な主婦になってほしかった。でも、2人の姉のようにお見合い結婚はしたくなかった」
 イタリアにいても、アフガン女性の苦境を忘れたことは一度もない。「家に閉じ込められ、生きたまま墓場に埋められているようなものだ」と話す。
 ハイダリさんはアフガンの少数民族ハザラ人だ。イスラム教シーア派が多く、アフガンでは何世紀にもわたり迫害を受けてきた。現在はイスラム過激派組織「イスラム国」の標的になっている。
 タリバンが復権するとハイダリさんは勤務先のツアー会社から標的になる恐れがあると警告を受け、アフガンから避難することを決意した。
 首都カブールの空港では、多くの人が逃げ出そうと必死だった。そこでの経験はトラウマになっている。
 「タリバンはカラシニコフ銃を使って群衆をたたいた。銃弾が私の耳元を過ぎていった。横にいた一人の女の子が倒れ、死んだ。ホラー映画みたいと思ったけど、現実だった」
 米国とポーランド行きの飛行機には乗れなかったが、伊ローマ行きの便に乗ることができた。
 ハイダリさんは今でも、いつか帰国して「自分の旅行会社を立ち上げ、女性ガイドを雇う」ことを夢見ている。
 でも、「タリバンがアフガンにいる限り、そこは私のふるさとではない」と語った。【翻訳編集AFPBBNews】
〔AFP=時事〕

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