コブクロ、「自分たちを研ぎ澄まして」 結成25年、新曲「エンベロープ」への思い
2023年03月09日17時00分
「YELL~エール~」「桜」「卒業」―。新たな門出を迎えるこの時期の春ソングといえば、人気デュオ・コブクロが生み出した数々の名曲が脳裏に浮かぶ。「出会いと別れ、人が涙する瞬間に流れる音楽は一生もの」と楽曲作りに心血を注いできた小渕健太郎と、ボーカルの黒田俊介は、今年で結成25周年。これまでの経験に感謝しつつ、決意を新たにする。(時事通信文化特信部 服部華奈)
◇「お互いを飽きさせない」
二人の出会いは、大阪・堺の路上ライブ。別々に音楽に向き合っていたが意気投合し、1998年にデュオを結成した。
地道にファンを増やし、2001年にメジャーデビューを果たすが、小渕は「無い知恵を絞って活動していた不安と、明日どうなるか分からない気持ちがあった」とデビューまでの日々を振り返る。「でも、その二人の時間がうそ抜きでちゃんとあったから、今がある。僕は常にそこに軸があるかな」と、しみじみ語る。
「お互いが相手を飽きさせない」。25年続けられた理由を分析する二人。なれ合いにならず互いに刺激を与え、修正が必要な時には2時間も3時間も話し合い、コブクロの音楽を見詰め直す。「そういう関係でないと、こんなに長くできないし、楽しくない」と小渕は言う。
黒田の豊かな歌声と小渕の繊細なギター。美しいハーモニーは唯一無二で、3月1日にリリースした新曲「エンベロープ」は心温まるバラードだ。
この曲は、生きづらさを抱える子どもたちや、その親に向き合う児童精神科医が主人公のドラマ「リエゾン―こどものこころ診療所―」(テレビ朝日系)の主題歌。作詞した小渕は、発達障害の親戚がいると言い、「何か足りないところがあると弱く見られるけど、弱いのは悪くない。強いと傲慢(ごうまん)になって、自分の痛みも、人の痛みも分からなくなるから」と思いを明かす。
「今って『無いんです』では通らない。『補いなさい』と言われてしまうけど、無いなら、その中でやったらいいんだよなと」。歌詞を読み、そう感じた黒田も、ありのままを理解し、見守る気持ちを歌に込めた。
「僕らの音楽とお客さんの声を久しぶりに聞ける」と期待を語っていた二人は3月、東京と大阪でスペシャルライブを開催した。1日の東京公演では、「ストリートのテーマ」で恒例のコール&レスポンスで会場全体のボルテージが上がり、二人は歓声や呼び掛けに全力で応えていた。
7月からは大阪を皮切りに、全国10都市を回るツアーがスタートする。「自分たちを研ぎ澄まして、5年後、10年後に向かって歌っていきたい」と小渕は意気込み、黒田も「自分たちができることを突き詰める」と力を込める。
25年間、互いを信頼し、高め合ってきたコブクロは、二人だからこそ作れる多彩な音の世界を見せ続けてくれるに違いない。
◇記者が体感した“あうんの呼吸”
取材したこの日は、アクシデントで黒田が遅刻。小渕が先に対応してくれたが、遅れた黒田の申し訳なさそうな表情を見て、「大丈夫。お薦めのカフェの話をしていたから」と即座に反応し、場を和ませた。
「僕は歌ってステージに出るだけの“一芸”。小渕は芸達者で、全部やってくれる」と黒田がおどけると、小渕も「(黒田は)会ったことがない雰囲気の人間だったんですよ。だから日々衝撃で面白くて。それが今も続いている」と笑う。
コブクロの魅力は楽曲だけではない。二人のあうんの呼吸がファンを引きつける軽妙なトークを生み、見事なハーモニーを支えているのだろう。
◇コブクロ=小渕健太郎(こぶち・けんたろう)、黒田俊介(くろだ・しゅんすけ)のデュオ。「YELL~エール/Bell」でメジャーデビューし、07年に「蕾(つぼみ)」で日本レコード大賞を受賞。25年の大阪・関西万博テーマソング「この地球(ほし)の続きを」を手掛けた。