思い出詰まったリュック題材に絵本制作 ウクライナ人児童のトラウマ解くきっかけに

2023年03月06日15時30分

【ロンドン(英国)AFP=時事】1年近く前、ルーマニアにもウクライナからの避難民が殺到した。国境付近でボランティアをしていたアンナ・シェフチェンコさんは、子どもたちが皆、小さなリュックサックを背負っているのに気付いた。(写真は、英ロンドンの学校で、ウクライナ難民の子どもに絵本「リュックサック」を読み聞かせる著者のダイ・レドモンド氏。リュックサックプロジェクト提供)
 リュックに子どもたちの思い出が詰まっている──。英国系ウクライナ人のシェフチェンコさんは、トラウマを抱えた子どもたちのために、リュックを題材にしたセラピープログラムを考えついた。英国のベテラン絵本作家ダイ・レドモンドさんに協力を仰ぎ、物語を書き下ろしてもらった。
 絵はウクライナ人のイラストレーター、リリア・マルチニュクさんに依頼した。前線の街ザポリージャの地下室で、「感動的で力強い」絵を描き上げてくれた。
 こうして絵本「リュックサック」が完成した。ウクライナから避難する男の子が、道中でリュックを無くしてしまう悲しい物語だ。
 男の子は友達と一緒に、来た道をたどり、爆撃に遭った自宅に戻る。
 リュックは見つからない。しょげ返った男の子を、友達が首都キーウの地下シェルターに連れて行ってくれた。
 男の子はそこで新しいリュックをもらう。でも余計に泣きたくなるだけだった。
 「その中には思い出が詰まっていないから」と、レドモンドさんは説明した。
 男の子はやがて、新たな生活の場へと出発する。新しい思い出もつくり始める。いつの日かウクライナのわが家にそれを持ち帰るのだ。
 ウクライナ出身の精神科医デニス・ウーグリンさんは絵本について、トラウマを抱えた子どもたちが直面する問題と重なると指摘する。
 「この絵本の肝は、男の子とその支援者が、言葉で言い表せないような経験について語り始められるようになるところにある」
 ウーグリン氏のチームは昨年9月、慈善団体のプログラムの一環として、この絵本を英国の学校現場に配布した。
 レドモンドさんは子どもたちの反応に心を打たれた。親が涙を流したのに対し、子どもたちは「味わいながら読み、ページをゆっくりとめくっていった」という。
 ■戦争について話すことのためらい
 英ロンドン大学キングスカレッジの児童心理学者、ビル・ユール名誉教授は、戦争について話すことで子どもが傷つくのを恐れている親は多いと話した。
 チームは、ウクライナから避難してきた子どもが多数通う学校に絵本を配った。
 シェフチェンコさんが読み聞かせをしていると、英国の子どもたちがウクライナの子どもたちに「こんな経験をしたの」と、問いかける場面が見られた。
 「英国の子どもたちがウクライナの子どもたちをハグするのを見た時、心が温まると同時に、心が洗われるような気持ちになった」とシェフチェンコさん。「子どもたちは以前は、そうした話をするのは気が進まなかった」
 教師らもそういった側面は認識していた。英国の子どもたちが戦争体験のことについてよく分かっていないこともあり、ウクライナの子どもたちは、自分たちは歓迎されていないと感じていたという。
 しかし絵本を読んだ後には、「英国の子どもたちがウクライナの子どもたちの手を取って図書館に連れて行き、もう一度一緒に読んだり、絵本の内容について話し合ったりする姿が見られた」と、シェフチェンコ氏は語った。【翻訳編集AFPBBNews】
〔AFP=時事〕

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