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元宝塚娘役・早花まこ、タカラジェンヌの「卒業」を深堀り OG同士で本音トーク、著書「すみれの花、また咲く頃」

2023年03月01日16時00分

「宝塚は体力的にも、気持ちの上でも大変なことがある。そこで頑張ることで心の力みたいなものが培われるのでしょう」とほほ笑む早花まこ=東京

「宝塚は体力的にも、気持ちの上でも大変なことがある。そこで頑張ることで心の力みたいなものが培われるのでしょう」とほほ笑む早花まこ=東京

  • 「すみれの花、また咲く頃―タカラジェンヌのセカンドキャリア―」。ディープな宝塚案内としても読める
  • 「宝塚に入って『フェアリー』になった方も、一人の女性であることが魅力的に伝わるといいなと思います」と話す早花まこ=東京

 来年4月に創立110周年を迎える宝塚歌劇団は、劇団員の新陳代謝を繰り返しながら鮮度を保ち、その長い歴史をつないできた。華やかな舞台に魅せられ、一筋に打ち込むタカラジェンヌたちに、いつか訪れる「卒業」の時。そこで何を思い、どんな人生の選択をするのか―。

〔写真特集〕タカラヅカ女優


 在団中、劇団の機関誌「歌劇」の連載で文才を発揮し、「宝塚の文豪」の異名を取った元雪組娘役の早花まこが、OGたちの決断を深掘りした「すみれの花、また咲く頃―タカラジェンヌのセカンドキャリア―」(新潮社)を出版した。「華やかな場所にいても、その方なりの闘いがあり、不安や悩みもあるけれど、それを乗り越える心の強さを持っていた」と取材を振り返る。元タカラジェンヌ同士だからこそ引き出せた本音トークが新鮮だ。

 ◇OGたちのさまざまな選択

 著書は、新潮社のウェブマガジン「考える人」に2021年3月から22年10月まで掲載された連載「私、元タカラジェンヌです。」を単行本にまとめたものだ。自身が卒業を決めてから、何人ものOGに「退団の心構え」を尋ねてノートに書き留めているうちに、もっと話を聞きたくなったという。

 取材したのは元雪組トップスターの早霧せいな、その相手役だった咲妃みゆ、元花組トップ娘役の仙名彩世ら9人。早霧や咲妃、仙名のように卒業後も舞台に立ち続ける人もいれば、外国人技能実習生に日本語などを指導している元雪組男役の香綾しずる、結婚して3人の子どもを育てる元雪組男役の夢乃聖夏といった全く別の道を選んだOGもいる。

 05年に入団し、花組の男役スターとして活躍した鳳真由は16年に退団後、医療系の大学に進学した。「男役として抜群のスタイルで、個性的な芝居をされていた方が大学でどう生活し、どういう思いで学ばれているのか気になった」と早花。08~18年に宙組で実力派男役として活躍した風馬翔は振付師になった。「私が在団中、振り付け助手として来られて一度お会いした。踊りにストイックで、一味変わっていてすごい人だと聞いて、お話を伺いたいと思いました」

 元タカラジェンヌ同士、在団中は全く接点がなかった人とも話が弾んだそう。「皆さんが『自分の力だけではなく、誰かが手を貸してくれて本当に感謝しています』とおっしゃったことが心に残っています。セカンドキャリアを着実に歩んでいる方は謙虚で、人への感謝、気遣いを忘れないんだなと改めて感じました」。取材を通して見えてきた共通点だった。

 ◇過酷な競争社会

 早花は宝塚好きの祖母と母に連れられ、幼稚園の頃から東京宝塚劇場で舞台に親しんだ。涼風真世が演じる「ベルサイユのばら」のオスカルを見て宝塚音楽学校の受験を決意し、競争倍率20倍の難関を突破して2000年に入学した。02年に宝塚歌劇団に入団し、雪組で子役から老女まで脇の幅広い役柄を演じる芝居巧者ぶりを発揮した。

 華やかに見える宝塚は、過酷な競争社会でもある。「せりふが多いか少ないか、スターの立場か、そうでないかが、はっきり分かる世界。そこだけに固執すると気持ちが折れてしまう」と早花。一方で、「脇役には脇役の楽しさや充実感があり、せりふが少なくても、ちゃんとお芝居していたらお客さんは見てくださる。そういう発見を探せば探すほど、やりがいのある社会でもありました」とも話す。

 20年3月に退団。「宝塚の舞台が好きでしたが、ずっと同じ世界で過ごしていく器ではないと思い、退団のタイミングは自分で決めたかった。いろいろな役を経験させていただいたので、心残りなく区切りを付けた」という。

 それが、新型コロナウイルスの感染が広がり始めた時期と重なった。退団公演「ONCE UPON A TIME IN AMERICA」は中断に追い込まれ、再開したものの千秋楽恒例の劇場前のパレードは中止に。「18年間在団して、思い描いていた卒業とは大きく変わった」というが、「ファンの方の宝塚を思う気持ちや、どれだけ雪組の方に支えられていたか、当たり前のように毎日舞台に立ち続ける環境がすごく大切な時間だったことを学んで卒業できた」と振り返る。

 ◇宝塚で頑張れたから

 10代で親元を離れて芸一筋に精進してきたタカラジェンヌが、キャリアを仕切り直すのは大変なことだ。「世間知らずなところもあり、卒業して社会に出た時、壁にぶつかることが多く、不安もたくさんある。(取材した)皆さんは『宝塚で頑張れたから、どこでも私はきっとできる。また仲間に出会えて、新しい何かを見つけられる』と自信を持って進んでいる。人に支えられながら頑張ったことが土台になるんだと思いました」

 早花自身、元タカラジェンヌとしてはあまり前例のない「セカンドキャリア」を切り開きつつある。

 子どもの頃から本を読んだり、文章を書いたりすることが好きで、ノートに書いた作文や物語を両親が製本してくれた。在団中は、各組の上級生が舞台の稽古や公演期間中の出来事などをつづる「歌劇」の連載「組レポ。」を8年間担当。雪組内の爆笑エピソードをユーモアあふれる独特の筆致で紹介して人気を集めた。

 退団後も文章を書く仕事を模索していたところ、縁あって「小説新潮」にエッセーを執筆する機会を得た。その後、「考える人」などの連載がスタート。今後は小説のほか、戯曲の執筆にも意欲をのぞかせる。

 「すごく難しそうだから、戯曲の教室に通って学んでから書かなきゃと思っていたら、周りのみんなに『とりあえず書いてみたら?』と言われました。書き始めないと書き上がらないですよね。だから今は『やってみたいな』と口にしておきます」(敬称略、時事通信社編集委員・中村正子)

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