ロシア、北極圏で軍備増強継続 北方艦隊や権益死守―多国間協力は「凍結」・ウクライナ侵攻1年
2023年02月27日07時01分
ウクライナ侵攻の長期化で損失が膨らむ中でも、ロシアは北極圏で軍備増強を続けている。衛星画像では昨年以降、軍事施設が新たに建設・刷新される様子が確認された。スウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟申請で、北極圏はロシアとNATOで二分。侵攻を受けて中止されたロシアとの科学研究協力も、再開の見通しが立たないままだ。
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ノルウェー国境近く、ロシア北西部コラ半島には、戦略原子力潜水艦を擁するロシア軍北方艦隊の拠点がある。衛星画像によると、昨年6月以降も同半島の複数のレーダー基地で、新たな施設が建設された。飛来するステルス機やミサイルの探知が目的とみられる。
このほか最北の軍事拠点であるナグルスコエ空軍基地などでも、滑走路や格納庫の改築が進んでいることが確認された。
ノルウェー国防大学のヴェッゲ教授は「北極圏はロシアにとって、戦略・経済両面で死活的に重要だ」と指摘。約15年前から続く軍備増強はウクライナ侵攻でも途切れておらず、主に北方艦隊と北極圏権益を守る「防衛目的」とみる。
北極圏に配備されたロシア空軍や北方艦隊の戦力は、ウクライナ侵攻開始後もほぼ無傷とされる。一方、地上部隊の約75%はウクライナに派遣され、大半が壊滅的打撃を受けた。
米シンクタンク、ウィルソンセンター極域研究所のピンカス所長は「ロシア軍は大きな打撃を被り、旧式の装備と訓練不足の兵士を前線に送らざるを得なくなっている」と分析。装備品の整備も間に合っておらず、「仮に北極圏で原潜事故が起きれば、極めて緊迫した状況に陥る」と警鐘を鳴らす。
ロシアによる2014年のウクライナ南部クリミア半島の「併合」後も、北極圏諸国は北極評議会を通じ、温暖化や生物多様性の研究などでロシアと連携していた。だが、昨年2月の侵攻開始後はそうした協力も停止。欧米の科学者は北極圏沿岸の半分を占めるロシア側の観測データを入手できず、研究の不完全さは否めない。
ヴェッゲ氏は「北極圏はこれまで、他の地域の競争や紛争の影響を受けなかったが、今では東西両陣営の対立を映す地政学的『縮図』になった」と話す。ピンカス氏も「北極圏の現状を表現する言葉としては陳腐」と前置きしつつ、「北極評議会や経済開発などの多国間協力が滞り、北極圏は『凍結』状態にある」と語った。