「大好き」のま法をかけて(全文) 日本語大賞・最優秀賞
2023年02月22日13時20分
日本語大賞で最優秀の文部科学大臣賞を受賞した山口県の敬愛小学校4年安田彩乃さん(10)の「『大好き』のま法をかけて」の全文は次の通り。
私には大切なものがたくさんある。おたん生日に買ってもらったシロクマのぬいぐるみ。いつも遊んでくれる、おとなりのお姉ちゃん。食いしんぼうの父が買って来てくれる、新発売のおやつ。ケンカをした後の、兄との仲直り。私はいつもこれらの「大切」にふれるたび、心の中でじゅ文を唱える。それは、「大好きだよ。」の言葉だ。この言葉を使うと、私の気分はそれまでの何倍もうんと明るくなる。このま法のような言葉の力に、一番最初に気づかせてくれたのは、母だった。
母は今、入院している。でも、私はさびしくない。強がらなくていいんだよ、と父は心配してくれたけれど、大丈夫。理由の一つは、毎日母とテレビ電話ができるからだ。目の前にいなくても、画面を通して母の温かさを感じることができる。帰ってきたらいっぱいだっこしてね、なんて、いつもならはずかしくて言えないことも伝えることができる。でも、最大の理由は、私たちにはひみつのおまじないがあるからだ。それは、心が温かくなる言葉、「大好き」のやり取りだ。
母とはテレビ電話でたくさん話をする。その日学校であった楽しい話だけでなく、父のうっかり話や、兄のがんばりも話している。母がうれしそうに話を聞いてくれるから、私はますます楽しくなる。私は学校にいる時から、今日は何を話そうかな、とワクワクしている。話の種を探すことが楽しみで、母が入院する前よりも学校が好きになったくらいだ。
でも、母との楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。私は電話が終わるのがさびしくてたまらない。また明日もお話できると分かっているのに、いつも泣きそうになってしまう。そんな時、母はいつもこう言ってくれる。
「彩ちゃんの言葉は、ママを元気にしてくれる、ま法の言葉だよ。彩ちゃん、大好き。」
この言葉を聞くと、私はたちまち元気になる。私は、母のま法使いなんだ。私はうれしくなって、母に必ずこう伝えている。
「私も、ママが大好き。今からママに、大好きのま法をかけるよ。明日の夜まで有効だから、さびしくないよ。」
母はいつもとびきりの笑顔で聞いてくれる。
この「大好き」の言葉は、私と母の笑顔をつなぐ大切なじゅ文だ。もしかしたら私は、母だけじゃなく、自分にもま法をかけているのかもしれない。会いたい気持ちを笑顔に変える、不思議なま法。私は「大好き」を伝えるのがもっともっと好きになった。
私はこれからも、「大好き」の言葉を大切なものに伝えていきたい。いつもいっしょだよ。ありがとう。これからもよろしくね。私の「大好き」には、いろんな気持ちがつまっている。私は今日も、「大好き」のま法をかけて元気にすごしている。