11歳の選手も犠牲に スポーツ界に深刻な被害、活動継続へ支援訴え―ウクライナ侵攻1年
2023年02月21日07時25分
ロシアによる侵攻が始まって間もない昨年3月、ウクライナ南東部ドネツク州マリウポリで11歳の新体操選手が犠牲になった。少女の名はカテリナ・ディアチェンコ。自宅が攻撃を受け、一緒にいた父親も亡くなったという。ウクライナの新体操関係者は「21世紀にこんなことが起こるなんて」と、悲痛な思いをSNSにつづった。
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スポーツ界への被害は深刻だ。ウクライナ政府などによると、侵攻により選手やコーチの計231人が死亡し、343のスポーツ施設が破壊された。スポーツ写真家のミコラ・シネルニコフさんは、身近な存在だった選手が死と隣り合わせの状況に追い込まれ、施設が破壊されていく現状を伝えるため、昨年6月から戦地を回っている。
トップ選手らの協力を得ながら、シネルニコフさんは壊れた施設や市街地を背景に惨状を切り取る。「私の写真の基準はアスリートの(反戦への)思いと、破壊の真実。どれほど困難な状況でも、その恐ろしさを世界に示すことが私の義務だ」。非日常的な写真は見る者の心を打ち、母国のゼレンスキー大統領も自身のSNSで紹介した。
ツアーで世界を転戦するテニス女子のマルタ・コスチュク選手は昨年10月、侵攻が始まってから初めてウクライナに戻った。ミサイルの音を耳にし、「今までにない恐怖を覚えた」。不安を残したまま母国を離れた2日後、故郷のキーウが爆撃に遭った。女子国別対抗戦のビリー・ジーン・キング杯で代表監督を務めるミハイル・フィリマ氏は「選手は国内で練習できない。テニスだけではなく、他のスポーツにも同じことが言える」と嘆く。
群馬県高崎市は、新体操ウクライナ選手団の避難先としてサポートを続けている。昨秋に続いて2度目の滞在となった今年は、1月中旬から約1カ月間、選手17人が高崎アリーナで練習した。母国では空襲警報が鳴るたびに施設外や地下への避難を余儀なくされ、満足に調整できない。2021年東京五輪個人総合9位で、親族が前線にいるというクリスティナ・ポグラニチナ選手は「チームの中には家族が戦地にいる人もいる。とても心配」と不安な表情を浮かべた。
今年は24年パリ五輪出場枠が懸かる世界選手権(スペイン・バレンシア)などが控えるが、情勢不安により、チームはワールドカップ(W杯)を含む遠征に必要な約27万ドル(約3600万円)の経費を賄えるめどが立っていない。ウクライナ体操連盟の幹部は慈善基金「Always Believe(オールウェイズ・ビリーブ)」を立ち上げ、活動資金を募っている。「国から強化費をもらえるかどうかも分からない。競技を続けるため、チームを支援してほしい」と訴える。 (時事)