市場と対話、問われる手腕 円滑「出口」に難題―次期日銀総裁
2023年02月15日07時07分
政府は14日、次期日銀総裁に経済学者の植田和男氏を充てる人事案を国会に提示した。次期総裁にとって、黒田東彦総裁が10年にわたり進めた大規模金融緩和からの円滑な「出口戦略」が最大の課題となる。ただ、政策修正に傾くと円高や金利急騰を引き起こす恐れがあり、市場との対話へ手腕が問われる。金融分析で屈指の理論家とされる植田氏だが、総裁就任後は難題が待ち受ける。
まず焦点となるのは、政府・日銀が2013年に公表した共同声明の見直しだ。声明は、上昇率2%の物価目標を明記。足元の消費者物価の上昇率は前年同月比4%と高い伸びを示しているが、日銀は23年度以降に再び2%を下回ると想定し、物価目標の安定的な実現には至っていないと判断している。
ただ、目標達成へ金融緩和がさらに長期化すれば、それに伴う弊害も拡大しかねない。鈴木俊一財務相は今月10日、見直しについて現時点では時期尚早としつつ、「新しい(日銀)総裁とも議論する必要がある」と言及。共同声明で「できるだけ早期」としている達成時期について「中長期」とする案などが検討されそうだ。
現在の金融緩和の枠組みを巡っては、日銀内からも「いずれかのタイミングで検証を行い、効果と副作用のバランスを判断していく必要がある」(政策委員)との声が上がる。具体的には、金融機関が日銀に預け入れる当座預金の一部にマイナス0.1%を適用する「マイナス金利政策」の解除や、10年物国債の利回りを0%程度に誘導する「長期金利操作」の変更や撤廃などが課題となる。
もっとも、日銀が昨年12月に長期金利の変動幅の上限を0.5%に引き上げると、市場では一段の修正観測が台頭。国債が投機的な売りを浴びて長期金利が上昇し、日銀は大量の買い支えを余儀なくされた。
出口戦略では、大規模緩和の一環で購入を続ける上場投資信託(ETF)の処分も必要。売却を急げば株価急落など市場が大混乱するリスクが高く、慎重な対応が求められる。
東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは、次期総裁の政策運営について「市場の思惑を封じるため当面は前のめりの発言は避けるかもしれない」としつつ、「いずれ長期金利操作の撤廃など政策修正に動く」との見方を示した。