物価高加速、賃上げ幅焦点 労使、必要性で一致も溝―23年春闘、事実上スタート
2023年01月23日18時26分
2023年春闘が23日、事実上スタートした。食品や光熱費などが高騰する中、連合は賃金を底上げするベースアップ(ベア)を含め「5%程度」の賃上げを要求。経営側も前向きに検討する構えで、「労使の主張がこれだけ一致するのは珍しい」(産業別労組幹部)との声も上がる。ただ、賃上げの手法などを巡ってはなお溝があり、物価高に見合う賃上げが実現するかは不透明。中小企業にどれだけ波及するかも焦点となる。
労使トップが論戦開始 春闘、賃上げへ攻防本格化―経団連フォーラム
◇労使トップ「方向性は一致」
「方向性はほぼ一致している」。23日、東京都内で会談した経団連の十倉雅和会長と連合の芳野友子会長は、取材にこう口をそろえた。会談では、持続的な賃上げへ協調して取り組むことが重要との認識で一致。物価高に対する「共闘」姿勢をアピールした。
背景にあるのは、低迷する日本の給与水準への危機意識だ。経済協力開発機構(OECD)によると、1991年以降30年間の雇用者1人当たりの実質賃金伸び率(フルタイム換算)は、米国や英国の50%超に対し、日本は4.9%とほぼ横ばい。足元では急激な物価上昇で、実質賃金の前年割れが続く。
見劣りする給与は、海外勢を含めた競合への人材流出を招き、日本経済の一段の弱体化につながりかねない。東京商工リサーチによると、今年の食品値上げは1万品目を超える見通しで、家計への負担増も当面収まりそうにない。
岸田文雄首相は年頭会見で「インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい」と経済界に要請。経団連は23年春闘の指針「経営労働政策特別委員会報告」で、ベアについて「前向きな検討が望まれる」と明記した。来月の本格交渉を前に、いち早く賃上げを表明する大手企業も相次いでいる。
◇中小への波及課題
ただ、ベア優先の連合に対し、経団連は定期昇給やインフレ手当も含め企業ごとに判断すべきだとの立場。基本給は一度上げると引き下げるのが難しいためで、新型コロナウイルス禍の経営不安を引きずる企業側が大幅なベアに踏み込めるかは見通せない。
大手企業は例年、ベア要求額の半分程度で妥結しているが、ある大手製造業の労組幹部は「例年のような金額では物価高騰分をカバーしきれない」と強調する。
日本の労働者の7割を抱える中小企業の対応も焦点となる。賃上げ原資確保には、コストの価格転嫁が不可欠。経団連は経済3団体連名で、大手企業に価格転嫁に応じるよう求めているが、思うように進んでいないのが実態だ。今春闘を「日本の未来をつくりかえるターニングポイント」(芳野連合会長)にできるのか、労使双方の覚悟と実行力が問われている。
◇春闘の主な日程
1月23日 経団連と連合がトップ会談
24日 経団連労使フォーラム
26日 電機連合が統一要求決定
2月 6日 連合が闘争開始宣言
中旬 自動車、電機大手労組が要求書提出
3月 7日 連合が中央集会
15日 大手企業の集中回答日