岸田首相、初訪米で「成果」アピール 待ち受ける国会追及
2023年01月14日17時34分
岸田文雄首相が就任後初の訪米でバイデン大統領と会談した。日本の防衛力強化に向けた反撃能力(敵基地攻撃能力)保有を含む国家安全保障戦略の改定、防衛費増額方針などを伝え、日米同盟の強化を確認。バイデン氏から日本の取り組みについて「称賛」を得るなど一定の「成果」を内外にアピールした。ただ、首相主導で進めてきた安保政策の転換を巡っては国内の理解が深まっているとは言えず、23日召集の通常国会では激しい追及も予想される。
日米、反撃能力で協力強化 共同声明「台湾、平和的解決を」―バイデン氏、日本防衛に責務・首脳会談
◇友人として話した
「同盟について一層連携を強く確認することができた」。首相は少人数、1対1、昼食形式と約2時間にわたる一連の会談を終えると、記者団に手応えを口にした。
2021年10月の就任後初のワシントン訪問。長引く新型コロナウイルス感染の影響などもあり、1年3カ月を経てようやく実現にこぎつけた。バイデン氏もホワイトハウスの玄関で自ら出迎え、首相への配慮を見せた。1対1の会談後には、両首脳が「友人として話したので時間が長くなった」と笑顔を見せる場面もあった。
「あまり例がない」(日本政府関係者)という昼食会も催され、手厚くもてなされた印象だ。結果として訪米のタイミングは、昨年末の防衛力強化を打ち出した直後。同行筋は「間を置かずに会うことは大きい」と解説する。
「先進7カ国(G7)議長としての腹合わせ以上の意味を持つ」と意気込んで臨んだ会談では、反撃能力保有を決めたことや防衛予算の拡充に触れ、「同盟の抑止力、対処力強化につながる」と説明。バイデン氏には昨年5月、東京で会談した際に防衛力の抜本強化方針を伝えていたが、今回の訪米でその約束を履行したと直接伝えた形となった。
一方、共同記者会見はセットされなかった。日本政府高官は「バイデン政権では会見をしない例は多々ある」と説明するが、バイデン氏の機密文書持ち出し問題が影響した可能性もある。
◇対中国、強く意識
両首脳が発表した共同声明は中国を強く意識した内容となった。「国際秩序と整合しない行動」と名指しし、日米安保条約5条の沖縄県・尖閣諸島への適用や台湾海峡問題の平和的解決も盛り込まれた。
外務省幹部は「米国の東アジアへの関与は不可欠だ」と指摘する。中国が台湾海峡への軍事的威圧を強める中、日米首脳がけん制する意味は大きいと強調した。
◇自分だけの決断
帰国後の首相には、国会での野党の追及が待ち受ける。立憲民主党と日本維新の会は、防衛費拡充に向けた首相の増税方針について、代表質問や予算委員会の審議で厳しくただす方針だ。
自民党内でも、4月に統一地方選が控える中、首相が「トップダウン」で防衛増税を決めたことにはなお異論がくすぶっている。党三役経験者は「1年かけて議論する話を自分の決断だけでやった」と批判。同党の萩生田光一政調会長は別の財源捻出策を練る特命委員会を立ち上げる方向で、党幹部は「防衛増税の話が完全に政局になっている」との見方を示した。
下落した内閣支持率は低迷したままで、上向く兆しは見えない。党内外の首相を見る目は厳しく、訪米の「成果」を政権浮揚につなげられるかは不透明だ。(ワシントン時事)