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「核兵器なき世界」どう実現 10日から国際賢人会議

2022年12月05日07時10分

インタビューに答える政策研究大学院大学の岩間陽子教授=11月30日午後、東京都大田区

インタビューに答える政策研究大学院大学の岩間陽子教授=11月30日午後、東京都大田区

  • インタビューに答える武井俊輔外務副大臣=11月29日午後、東京都千代田区

 世界の政治リーダーや有識者らが核軍縮を巡り議論する「国際賢人会議」が10、11両日に広島市で開催される。同会議は、核兵器保有国と非保有国の「橋渡し役」を目指す首相が提唱。ウクライナに侵攻したロシアが核の使用をちらつかせるなど核を巡る情勢が緊迫度を増す中、世界は「核兵器なき世界」の実現に向けてどう取り組むべきか。国際政治学者の岩間陽子政策研究大学院大教授と外務副大臣に話を聞いた。

核軍縮の機運絶やすな 禁止条約生かす努力を【解説委員室から】

 
 ◇核軍縮と拡大抑止、同時並行で=岩間陽子政策研究大学院大教授
 ―核を巡る現状認識。
 核拡散防止条約(NPT)体制発足後、核の使用や威嚇は相手に核を持ちたいという動機を与えるため、特に非保有国に対しては行わないとの合意の下、米ロ両国は責任ある大国として振る舞ってきた。ロシアがそれを崩す行動を取り、核の秩序に大きな動揺を与えた。国際賢人会議は第一に、使用や脅しを認めないとの規範を再確認し、強く打ち出す必要がある。
 ―ロシアが核を使用する可能性は。
 プーチン大統領次第だ。仮にロシアが戦術核を小規模で使い、「核兵器もただの兵器」という話になると、核を持つ国が増え、逆に保有による特権もなくなる。ロシアは自身の持つさまざまなアセット(価値)を壊す愚行を重ねている。使用は言語道断であり、その場合は重大な帰結があると繰り返し発信し、使わせないラインを守ることが重要だ。
 ―アジアでも核軍拡の動きがある。
 中国が米ロと肩を並べたいという勢いで核軍拡を進めており、不安定化を招く懸念材料だ。北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の能力をほぼ持ったとの見方もある。核の役割拡大を招く流れへの懸念は賢人会議でも強く指摘してほしい。
 ―核兵器禁止条約が発効した影響は。
 核禁条約は「核のタブー」を強める上で一定の役割を果たしているが、核軍縮に向け保有国を説得する道具としては強力ではない。日本に今すぐ入る選択肢はないが、長期的な目標は共有しているとのメッセージは発していく方が良い。
 ―NPT再検討会議がロシアの反対で決裂。
 予測通りだが、NPTの役割は依然としてある。核軍縮は逆風の時代が続くが、流れを変える契機を見いだすのが日本の役割だ。すぐに成果が出るものではないので気長に取り組む必要がある。
 ―米国の核の傘の下でどう核軍縮を進めるか。
 核を肯定する拡大抑止と核軍縮は矛盾すると思われがちだが、拡大抑止も核軍拡を防ぐ一つの手段であり、同時並行的に進めるべきだ。核の存在が大きくなりすぎないための防衛政策協議を真剣にすると、短・中期的には今まさに日本がしているように通常兵力の増強につながる。そこと長期的な軍縮目標との橋渡しが賢人会議のような場には求められる。
 ―岸田文雄首相が提唱したヒロシマ・アクション・プランの評価は。
 核兵器不使用の継続、透明性向上、減少傾向維持など目標自体は正しい。将来的な軍縮を見据えた信頼醸成のため、アジア版の欧州安全保障協力機構(OSCE)のようなフォーラムを日本が提言してはどうか。
 ―賢人会議に期待することは。
 核軍縮や軍備管理を学ぶ人材を育成するイニシアチブを出してほしい。また、(ロシアがウクライナの)原発を武器化する動きがあった。厳しく批判すると同時に、国際原子力機関(IAEA)や国連が中立的な立場で原発の危機対処ができるよう権限を強化すべきだ。
 
 ◇核軍縮へ機運高める=武井俊輔外務副大臣
 ―岸田文雄首相の核軍縮に懸ける思いは。
 首相のライフワークの一つであり、思いは非常に強い。ロシアのウクライナ侵略をはじめ国際的に厳しい状況だが、核兵器なき世界に向け全力を尽くす決意は全く変わっていない。そういう時だからこそ国際賢人会議を開催する意義がある。
 ―賢人会議の狙いは。
 核兵器国、非保有国双方の参加者が、国の立場を超えて自由闊達(かったつ)に議論し、知恵を出し合う。来年広島市で開催する先進7カ国首脳会議(G7サミット)なども通じて核軍縮に向けた機運を高めていく。厳しい安全保障情勢の下で、それができる環境を日本が世界の中で担保することが今は重要だ。
 ―今回の会議には政治リーダーも関与する。
 アカデミックな世界でいかなる結論が出ても、実効性を持てるかは政治のリーダーシップに懸かっている。現職や元職の政治リーダーが加わり、核兵器なき世界という理想を高く掲げ、確認し続けるということを広島から世界に発信したい。
 ―核を巡る情勢は厳しい。
 ロシアの核使用は、戦後の核軍縮の歩みへの挑戦であり、脅しも含めて断じて容認できない。北朝鮮のさらなる挑発行為を非常に懸念している。核ミサイルをはじめ軍事的な質、量を強化している中国には、透明性を強く求めなければいけない。
 ―核兵器禁止条約の発効で分断が深刻化した。
 核兵器国と非保有国が深く対立し、お互いの殻に閉じこもっていては何も進まない。核軍縮に向け現実的な道筋を示すことが、日本だからできる「橋渡し」の役割だ。その一つの形が首相が提唱したヒロシマ・アクション・プランであり、その思いを賢人会議でも共有しながら議論を深めていく。
 ―8月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議は決裂した。
 ロシアは反対したが、NPT体制自体を否定してはいない。核兵器国が他国を侵略するという極めて異常な状況下で、次回日程も決定し、NPTというフレームがぎりぎり維持されたことは大きな意義があった。
 ―世界は核軍縮より核抑止に傾いていないか。
 だからこそ賢人会議の広島開催に大きな意義がある。もし核兵器が使用されれば世界は不可逆的(核軍拡)になる。核抑止が潮流ということであれば、核兵器なき世界という旗を降ろしたり、旗が流されたりするようなことがあってはいけないと発信しなければいけない。
 ―米国の拡大抑止の信頼性を確保しながら、どう核軍縮を進めるか。
 すべての核保有国を巻き込む形での軍備管理、軍縮の取り組みが必要だ。米国等と連携し信頼関係を保持しながら、特に保有国に対しアクションを起こさなければ先に進まない。包括的核実験禁止条約(CTBT)の普遍化や発効促進を重視していく。核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始までの間、核保有国が兵器用核物質を生産しない「モラトリアム」も最重要事項だ。

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