自動車業界に積極アプローチ 賃上げへ協力期待―岸田首相
2022年11月03日07時11分
岸田文雄首相は2日、トヨタ自動車の豊田章男社長や経団連の十倉雅和会長らとの会談で、自動車産業の競争力強化に向けた官民連携を確認した。首相は最近、自動車業界への接近を強めている。政権の行方を占う春闘での「賃上げ」や看板政策「新しい資本主義」の実現に向け、協力を引き出したい思惑がある。
岸田首相、自動車核に経済成長を 賃上げへの協力も要請―トヨタ社長らと会談
「これまでの賃上げや取引適正化の取り組みを高く評価している。引き続き協力をお願いしたい」。会談で、首相はこう要請。豊田氏は「経済成長を通じて分厚い中間層の形成を目指していく」と応じた。
首相は6月に愛知県のトヨタ工場や三重県のホンダ工場を訪問。10月にはF1シリーズ日本グランプリを視察した。
背景には、政権の肝煎り政策実現に業界の協力が不可欠という事情がある。特に歴史的な円安が物価高に拍車を掛け、賃上げの実績は来春の統一地方選の命運を左右しかねない。自動車産業は裾野が広いため、トヨタは賃上げのけん引役になり得るとみている。
自動車業界に対しては、成長のエンジンとしての期待も首相にはある。首相は「モビリティー(移動手段)は『新しい資本主義』の中軸とならねばならない分野だ」と強調。会談後、豊田氏は脱炭素化やDX(デジタルトランスフォーメーション)などの課題を挙げ「モビリティーを軸に進めていくことについて、(政府と)キックオフができた」と記者団にアピールした。
ただ、首相の思惑通りに賃上げが実現するかどうかは見通せない。首相は次の春闘を「『成長と分配の好循環』に入れるかどうかの天王山」と位置付けるが、働き手の大半を占める中小企業には円安の恩恵が及びにくく、経済界は一律の賃上げは難しいとの姿勢を崩していない。
首相周辺からも「一般論としては賃上げに賛成だろうが、具体的な賃上げの数字を出せば抵抗される」との声が漏れている。