習氏、毛沢東追う危うさ 絶対的権威にこだわり―「まるで文革」懸念も
2022年10月23日18時35分
中国共産党の習近平総書記が異例の3期目に入った。信頼できる「イエスマン」だけで最高指導部を固め、異論を挟む余地の一切ない体制をつくり上げた。絶対的な権威にこだわり、建国の父、毛沢東と並ぶ終身指導者の地位をもうかがう。民主主義諸国とは全く異なる未来を描き、文化大革命による大混乱を招いた毛の時代に逆戻りするとの懸念も出ている。
◇忠誠最重視
新最高指導部の特徴は「庶民から嫌われても習氏への忠誠を貫き通す人物」が複数引き上げられた点だ。上海市は今年、新型コロナウイルスの感染拡大で長期のロックダウン(都市封鎖)を敢行し、市民の不満が高まった。それを指揮した李強・市党委員会書記は、習氏に次ぐ序列2位に上り詰めた。序列5位の蔡奇・北京市党委書記は、粗暴な行政手腕が目立っていたが、「人民の領袖(りょうしゅう)」などと、主に毛に使われた「領袖」の呼称を使って懸命に習氏を持ち上げてきた。
追い落とされたのは、胡錦濤前総書記らを輩出してきた共産主義青年団(共青団)の出身者だ。李克強首相、汪洋・全国政治協商会議主席が最高指導部から外れたほか、「胡前総書記から最もかわいがられた共青団ホープ」の胡春華副首相は、最高指導部入りを果たせなかっただけでなく、その下の政治局員(現在24人)からも追放された。胡前総書記は22日の党大会閉幕式で、係員に連れ出される形で突然退席し、臆測を呼んでいる。
◇口閉ざす庶民
「今は社会の雰囲気が文革当時にとても似てきており、自分も友人たちも思想犯と見なされないよう口を閉ざす日々になった」。69歳の習氏と同世代の男性は、おびえながら小声で話した。1966~76年の文革期、言動を問題視され、住んでいた家から引きずり出されて厳寒の山中に強制移住させられ、生死の境をさまよったという。
毛は、政敵を倒して自身の権威を高めるために文革を発動。触発された全国の若い「紅衛兵」が毛を絶賛しながら「毛以外の権威」を壊して回った。党幹部らをつるし上げただけでなく、寺院など歴史的建造物も次々と破壊。そうした不幸な時代が二度と訪れることのないよう、毛体制後に権力を握ったトウ小平は、個人崇拝の禁止を定めた。
習氏は16日の党大会開幕式で行った中央委員会報告(政治報告)で「マルクス主義の中国化を推し進めることは党員の歴史的責務」と宣言した。世界の社会主義思想に多大な影響を与えたマルクス主義を中国の実情に合わせて取り込むのは、党の従来方針ではあるが、今後5年の施策説明で真っ先にマルクス主義を強調したところに、毛をほうふつとさせる習氏の政治姿勢が見て取れる。
だが、人々を引き付けるカリスマ性では、実績に乏しい習氏はまだ毛に及ばない。そのため習氏が名実共に毛に並ぶには「共産党の悲願である台湾統一を果たすほかない」(中国政治研究者)。党の憲法に当たる党規約に「台湾独立に断固反対し、食い止める」との文言が明記されることが決まっており、習氏3期目は台湾をめぐる緊張が高まるのは間違いない。(北京時事)