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AIMが腎臓結石の成長を抑制、体外への排出促進 人間とネコの結石再発防止薬の開発も AIM医研・宮崎徹所長インタビュー

2022年10月10日11時00分

AIMの立体構造モデル。プラスに荷電した部分を青、マイナスに荷電した部分を赤で表現した[AIM医学研究所提供]

AIMの立体構造モデル。プラスに荷電した部分を青、マイナスに荷電した部分を赤で表現した[AIM医学研究所提供]

  • 尿の中のシュウ酸カルシウム結晶には鋭い突起があり、臓器を損傷させて炎症を引き起こす(写真左)。AIMを投与すると結晶化が抑制される(写真右)[AIM医学研究所提供]
  • マウスの腎臓にできた結石の状況。上段は結石が白く浮かび上がるように撮影したもので、右がAIMを投与したマウス。下段は腎臓を赤く染色し、全体像を見えやすくした。AIMを投与していない左の腎臓は、結石で組織が白っぽく見えている[AIM医学研究所提供]

 「ネコの宿命」とされる腎臓病の治療にタンパク質「AIM」を利用する方法を開発した宮崎徹氏は、東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センターを退任し、今年4月に一般社団法人「AIM医学研究所」の代表理事・所長に就任した。今もAIMによる病気治療の可能性を探る研究者として第一線にある宮崎所長は、AIMが腎臓結石の成長を抑制し、体外へ自然に排出させる効果を持つこととを確認し、この8月に論文として発表した。

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 腎臓結石は尿路結石とも呼ばれ、人間では特に男性の患者が多い。また、結石はネコもかかりやすく、人間、ネコともに再発を繰り返すことで知られる。今回の研究では、AIM自体が結石の成長を抑制するだけでなく、AIMを構成するペプチド(アミノ酸が複数結合した分子)だけでも、同様の効果を持つことが判明した。宮崎所長は、このペプチドを活用し、結石の再発を防ぐ注射薬の研究も進めており、将来的には飲み薬の開発も視野に入れている。結石に悩む人間とネコの患者にとって福音となる可能性が見えてきた。
   ※  ※  ※
 ―2005年に実施された大規模疫学調査によると、国内での腎臓結石(尿路結石)の生涯罹患(りかん)率は男性15.1%、女性6.1%でした。男性に限ると、6~7人に1人が一生に一度は結石を発症することになり、結石で悩む人の多さが分かります。
 腎臓結石の8割以上は、尿に含まれる老廃物のシュウ酸とカルシウムが結び付いて発生します。結石が大きくなると激しい痛みを引き起こしますが、その治療法は、手術での除去や超音波による破砕といった外科的な手法しかありません。しかも、結石は一度取り除いても50%以上の患者さんで再発します。今のところ、それを防ぐためにできるのは、結石が発生しにくくなるよう、食事をコントロールすることだけです。
 ―先生の研究で、AIMが体内のさまざまな「ゴミ」掃除に関わっていることが明らかになりましたが、結石の成長を抑制する働きもゴミ掃除のひとつと考えていいのでしょうか。
 結石は明らかに体内のゴミのひとつです。AIMは結石ができても大きくならないように働き掛けて、自然に体外へ排出するように促しますから、ゴミ掃除の一種と言っていいと思います。
 ―結石はどのような仕組みで大きくなるのでしょうか。
 尿に含まれる老廃物のうち、シュウ酸はマイナス(負)の電荷、一方でカルシウムは逆にプラス(正)の電荷を帯びています。この二つが出合うと、正負の電荷が引き合って結合し、シュウ酸カルシウムの核ができます。核の表面には不安定な電荷が残っていて、そこに新たなシュウ酸やカルシウムが次々と張り付いて結晶化し、さまざまなタンパク質や細胞の欠片なども巻き込みながらどんどん大きくなります。これが結石の正体です。
 ―AIMが結石の成長を防ぐ仕組みを教えてください。
 実はAIMにも正や負それぞれの電荷を帯びた部分があって、近くに小さなシュウ酸カルシウム結晶があると、その表面電荷と引き合って結合します。AIMの電荷はとても強いので、シュウ酸カルシウム結晶の表面電荷を奪って安定化させてしまいます。そうなると、尿中のシュウ酸やカルシウムの分子が引き付けられることはなくなるので、結晶は成長しなくなります。
 ―AIMは腎臓の中の細胞の死骸などのゴミと結び付き、それを貪食細胞が食べて排除する機能がありますが、シュウ酸カルシウム結晶も同じようなメカニズムで掃除されるのでしょうか。
 貪食細胞に食べられる結晶もありますが、大半は尿と一緒に体外へ排出されてしまうと思います。AIMがないと、とげのある結晶がどんどん大きくなって、尿路の中に残ります。AIMと結合したシュウ酸カルシウムにはとげもありませんから、楽に排出できるはずです。
 ―ゴミ掃除の別のパターンということですね。
 その通りです。これまでの腎臓疾患や脳梗塞の治療のように、細胞の死骸や炎症性のタンパク質を取り除く(貪食細胞に食べさせる)のとは違うタイプのゴミ掃除ですね。これが分かった時、AIMの作用の多様性に驚きました。今回の研究の過程で、AIMの一部のペプチドを取り出しても、シュウ酸カルシウムの電荷を奪う機能を発揮することが分かりました。
 ―そのペプチドを薬にすることは可能ですか。
 可能だと思います。もちろんAIM本体の方が効果は大きいのですが、AIMはタンパク質なので、培養に手間と時間がかかります。ペプチドなら化学合成できますし、その構造を元に飲み薬にもできる低分子化合物を開発することも可能ですから、結石の再発防止に役立つでしょう。
 ―腎臓結石はネコにも多いそうですね。
 ネコは人間のようにAIMが機能していませんから、結石ができる確率は人間より高い可能性があります。それにネコは「痛い」と言えません。飼い主の方が病気に気付けないことも多いと思います。
 ―ネコの結石予防薬も作れますか。
 ネコのAIMのペプチドを取り出せば作れますが、ネコに気付かれないように、キャットフードやおやつに混ぜるといった工夫は必要ですね。

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