安倍氏国葬、世論の理解見えず 首相、国会説明に腐心―くすぶる法的根拠・旧統一教会問題
2022年09月08日20時57分
岸田文雄首相が安倍晋三元首相の国葬に関する閉会中審査に臨んだ。反対の世論が強まる中、自ら説明して理解を広げる狙いがあったが、法的根拠や安倍氏と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関係など、質問が焦点に及ぶと苦しい答弁に追われた。野党側は納得しておらず、引き続き説明を求める構えだ。
◇意義訴え
「国として安倍氏を追悼するとともに、わが国は暴力に屈せず、民主主義を断固として守り抜くという決意を示す」。首相は閉会中審査の場となった衆院議院運営委員会で、安倍氏の歴代最長の在任期間や実績などを挙げながら、実施の意義をこう訴えた。
反対の世論を念頭に「国葬をしても国民の内心の自由が侵害されることはない」とも強調。全額国費を支出する経費に関しても「過去の行事との比較において妥当な水準だ」と語った。
着席中にしきりに眉を動かし落ち着かない様子も見せた首相。当初は松野博一官房長官が担当する予定だった閉会中審査に首相自ら出席したのは、国葬への風当たりが強まり、内閣支持率の下落要因にもなってきたためだ。8日は国葬への批判を和らげる重要な機会だった。
首相は海外から1700を超える追悼メッセージが寄せられているとした上で、安倍氏の葬儀を「国の儀式」として実施し、海外の弔意に応える必要があるとも語り、幅広い理解を求めた。
◇姿勢に変化
しかし、議論が具体的な論点に移ると、それまで丁寧に説明していた首相の姿勢は微妙に変化した。
立憲民主党の泉健太代表が手続きの妥当性に疑問を投げ掛け、「強引な決定方法に反発が起きている。三権の長に相談したのか」と迫ると、首相は即座に反論。「内閣府設置法と閣議決定が根拠だ。国葬は間違いなく行政権に属する」と語り、事前調整は不要との立場を強調した。
法的根拠をめぐっても、議論は平行線をたどった。
国民民主党の浅野哲氏は、首相が挙げた内閣府設置法に関し「国の儀式に関する事務」を規定しているにすぎないと指摘。「内閣府の独断で国の儀式を決定できないという疑念がある」とただした。だが、首相は「行政権に含まれるなら閣議決定を根拠に行うことが求められる。これが法的な考え方の整理だ」と答弁するのみで、浅野氏の疑問に正面から答えることはなかった。
◇安倍氏の調査拒否
国葬の対象者である安倍氏と旧統一教会の関係に議論が進むと首相の答弁はさらに後退。「安倍氏がキーパーソンだった」として泉氏が具体的な調査を求めると、首相は「亡くなられたこの時点で実態を十分把握するのは限界がある」と述べるにとどめた。
自民党の高木毅国対委員長は記者団に「首相は丁寧に分かりやすく説明していた」と評価。もっとも、今回の質疑で国民の理解が広がったかは見えない。自民党の中堅議員は「何が言いたいのか分からなかった」と声を落とし、公明党の重鎮は「反発は収まらないだろう」と漏らした。
泉氏は記者団に「国民は納得できていない」と断言。国葬の経費に触れ「どれだけ膨らむか分からない。説明責任をまだ果たしていない」として、追加の閉会中審査を含めさらなる対応を求めていく考えを示した。