「問題見えながら対処せず」 デフォルト状態のスリランカ―アジア経済研究所・荒井氏
2022年06月11日07時11分
インド洋の島国スリランカが独立以来最悪の経済危機に直面し、デフォルト(債務不履行)状態に陥った。アジア経済研究所の荒井悦代・南アジア研究グループ長は、取材に「問題が見えていながら対処しなかった結果だ」と語った。
経済危機は外貨不足によって引き起こされた。その最大の要因は、2005年から10年間続いたマヒンダ・ラジャパクサ政権が、インフラ整備のため中国などから次々と借り入れを重ねた巨額の対外債務だ。
しかし、無計画なインフラ整備が産業や雇用を直接生み出すことはなかった。ここ数年の外貨獲得の頼みの綱は「観光業や海外の出稼ぎ労働者からの送金だった」と荒井氏は指摘する。「産業構造を変え、輸出を増やす取り組みをしてこなかった」と振り返った。
19年の連続爆弾テロでスリランカは観光客が減った。この年の大統領選ではマヒンダ氏の弟ゴタバヤ・ラジャパクサ氏が当選した。ラジャパクサ家が権力を取り戻すと、大減税で人気取りに走り、財政を圧迫させた。
20年になると、新型コロナウイルスの世界的流行でスリランカ観光は事態がさらに悪化した。昨年からの世界的な燃料価格上昇も響いた。
スリランカ政府は21年に入って、唐突に「有機農業国家」を宣言したが、外貨不足で化学肥料を輸入できなくなった結果だった。危機的状況をもはや国民の目から隠せなくなった。外貨準備は昨年後半には「輸入1カ月分」しか残っていないと言われるようになり、米格付け会社から今年4月、部分的なデフォルトを宣告された。
一方、立て直しに向けた国際通貨基金(IMF)との本格交渉開始は遅れた。IMFは通常、支援と引き換えに国有企業の民営化など厳しい緊縮策を迫る。しかし、ラジャパクサ一族による借金を国有企業の売却と従業員の解雇で得た資金で返すことに抵抗は強い。荒井氏は「国民の支持を得られない国有資産の切り売りは政府にとって『悪』。どうしても避けたかった」と身動きが取れなくなったラジャパクサ政権の心情を分析した。
スリランカは今、政府に抗議する激しいデモが続き、混迷が深まっている。荒井氏は「日本を含め近隣国は、政治的安定を取り戻せるよう、良識を持った援助を行う必要がある」と強調した。