武久顕也・岡山県瀬戸内市長
かつて日本刀工の流派「備前長船」の拠点があった岡山県瀬戸内市は、この地で制作された戦国武将・上杉謙信が愛用した名刀を購入するため、2018年11月にふるさと納税などによる寄付の募集を開始した。その結果、20年1月に目標としていた約5億1300万円を達成。武久顕也市長(たけひさ・あきなり=51)は「当初は結構ネガティブな意見もあったが、だんだんと理解してもらえるようになってきた」と、名刀の「里帰り」プロジェクトへの反応を説明する。
市が購入を目指しているのは、国宝の備前刀「太刀 無銘一文字(山鳥毛)」。鎌倉時代中期に、現在の瀬戸内市長船町地区で作られたとされ、岡山県内の個人が所有している。同市には、日本刀を専門に展示する備前長船刀剣博物館があるものの、国宝級の収蔵品がない。このため、地元で作られた名刀の取得を目指すことにした。
上杉謙信の地元である新潟県上越市も購入に意欲を示したが、高額な価格がネックとなって17年に断念。武久市長は「大切な文化をゆかりの地に残すことで、街の魅力が高まり、誇りの醸成にもつながる」と購入の意義を強調する。
市民からは当初、「なぜそんな高額なものを購入するのか」「なぜ瀬戸内市に必要なのか」と疑問を呈されることが多かったという。それでも、税金を使わずにクラウドファンディング型のふるさと納税で購入資金を集める方針を示すと、この取り組みへの理解が広がったほか、文化団体や神社、有識者らの賛同も得て、「市民からも必要だという声が上がるようになった」(武久市長)。
19年10月には、こうした機運の高まりを実感する出来事があった。「多くの市民に刀の魅力を直接見て知ってもらいたい」との思いから実現した、刀剣博物館での山鳥毛の特別展示だ。一週間で約5500人が来館。「遠く北海道から来てくれた人もいて、一番長い時は1時間半待ち。他の刀と並べて見てもらったことで、違いも分かってもらえたと思う」と語る。こうした取り組みもあって、1月26日現在で約5億6800万円が集まり、資金調達の期限である3月末まで約2カ月を残して目標金額を達成した。
一方で「寄付を使った取り組みを山鳥毛のためだけに終わらせず、環境問題などさまざまな社会的課題の解決に活用したい」と今後の対応にも思いを巡らせる。ふるさと納税について「理念に共感してくれた人と市域を越えて施策の推進に取り組むことができる制度」と話し、「返礼品の損得に訴えるのではなく、制度の本来の良さを活用することに重点を置きたい」との考えを強調した。
〔横顔〕英バーミンガム大で公共経営管理学修士を取得。留学中には、バーミンガム市で業績評価チームに加わった。趣味はオペラなどの声楽で、空いている時間を見つけては発声練習に励んでいる。
〔市の自慢〕瀬戸内海に面し、温暖な気候で知られる。ぶどうやオリーブの栽培、海岸沿いではカキの養殖が盛ん。(2020/02/06-08:30)
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